ゴールドコラム & 特集

Vol.9-金箔づくりは、ダイナミックにして繊細

以前に、金箔の職人にテレビの取材が入ったときのこと。
竹箸を使って箔を扱う繊細な作業を撮影した後、今度は箔打ちをしているところを撮影することになりました。箔打ちのシーンの準備をしながら、職人が言いました。
「さっきのところ、OKだった? 撮り直しがなければいいんだけど」
もちろん撮り直しはイヤだけど、何か特別な理由があるのかな、と思っていると
「箔打ちの後すぐだと、手が震えることがあるから」とのこと。
ええっ! あ、そっか! そうですよね。

箔打ち機の音と振動はハンパじゃありません。ご近所迷惑にならないよう、工場の壁と扉は防音になっていますし、床下は空気の力を利用して振動がダイレクトに外へ伝わらないような構造になっています。
ちなみに、我社のもうひとつの工場の場合は、建物の周囲にぐるりと溝をつくってあります。なぜかその中には金魚が泳いでおり、鯉じゃないの? とつっこみたくなるくらい立派に成長しています。餌の与えすぎなのか、振動が心地よいのか、原因は不明です。
閑話休題。

箔打ち紙の束を素手で持ち、1分間に約700回転する機械のハンマーにすごい力で打たせているのですから、その衝撃による振動を手に受けているのです。とってもシゲキ的… それに、うっかり指を打ってしまおうものなら、痛いどころでは済みません。超スリリング…


大迫力の箔打ち仕事。見ていると、手を打ちはしないかとハラハラします。


激しい振動がそのまま外に出て行かないよう、箔打ちの機械の床下にも工夫が。


ガラスの向こうは箔座本店。お客様はお店側からこちらを見学されます。しっかり防音されているので、音は一切聞こえません。

職人は何食わぬ顔して機械で箔打ちしていますが、それはその後の作業に影響が出そうなほど激しい仕事なのだということに改めて気づかされました。でも、何よりハッとさせられたのは、職人のプロとしての心構え。もしも手が震えてしまってはよい作業ができませんし、そもそもそんな様子をカメラに収められてはイカン! というわけです。カッコイイ!

そういえば、以前にこんな言葉を聞いたことがあります。
「箔職人の夫婦においては、布団をあげるのは旦那の仕事」
いったい、金箔と布団に何の関係が?

それは、こういうことです。箔の職人は、多くの場合、夫婦や家族で仕事をしています。奥さんは、細かい下仕事や、箔打ち紙からの抜き仕事、人によっては箔移し(箔を切り揃える仕事)をすることもあります。つまり、竹箸を使っての繊細な作業をします。布団なんて重いものを持とうものなら、手が震えていい仕事はできないぞ、というわけですね。ナルホド!
「そうなんですか?」と聞いた時、奥さん「ふふふ」と意味ありげな笑顔でしたけど。

 「1分でわかる金箔」のプロ(?)として、私も明日から布団あげは辞退することにします。手が震えてうまくペンが持てなかったら困りますもの? 

あれ? 私、何かおかしいですか?


箔座

プロフィール

箔座

HAKUZA

世界に誇る伝統の技を残し、世界遺産となった中尊寺金色堂など重要文化財の金箔を手がける。2002年、「純金プラチナ箔」(特許取得)を開発。箔本来の力と美しさを「箔品」として表現し、「箔座本店」をはじめとする石川県金沢市の直営店のほか、東京日本橋で旗艦店「箔座日本橋」を展開。

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