ゴールドコラム & 特集

消費税とTocomゴールド


消費税と現物のゴールドに関しては先々週3/21付けの記事「金はいつ買うの?今でしょ!」で詳しく書きました。

 今回もまた消費税とゴールドとの考察ですが、今回はTocomとの関係とそこから考えられることです。実は短期的な取引を考えるならば、現物よりもTocomの先物を利用するほうがはるかに効率的なのです。

 今月4月26日(2013年4月26日)には2013年4月限(「限」は取引限月の意味で、4月「ぎり」と読まれます。)は納会をむかえ、翌営業日に当たる4月30日には2014年4月限が生まれます。そしてこの限月から消費税が5%から8%に上がることになります。これが個人投資家にどのような影響を与えるでしょうか。

 まず、プロの当業者(商社や商品取引員など)は税額が変わっても全く影響はありません。商品を売って得た消費税、買って払った消費税は申告し、納税そして還付の対象になります。三ヶ月に一度もしくは一年に一度、消費税の受け取り支払を申告し、納税もしくは還付を受けます。そのため消費税の税率が変わってもあくまで受け取ったものを払う、払ったものを還付されるということで、実質的にその商品を最終消費者として消費し、消費税に最終支払者にならない限りはまったく関係ありません。右から左へと流すだけです。

 しかし個人の場合、そうではありません。

 仮に2013年4月26日に2014年4月限が生まれたときに、2014年2月限買い4月限売りを同時に建てたとしましょう。この原稿を書いている最中の先限の2月限と2番限の2013年12月限の値差は5円です。仮に新しく生まれる4月限とそのとき2番限となる2月限の関係もこれを同じと仮定しましょう。4840円で2月限の買いと同時に4845円で4月限を売り建てます。2月限は売り戻さずに納会までで持ち越し、現受けします。ゴールド1kgバーを限受けするとゴールドの代金が4,840,000円。そして消費税が5%で242,000円の合計5,082,000円の支払になります。そしてこれを4月の末まで倉券として倉庫会社に預ける費用が1期(10日間)408円 x 6期 = 2,448円かかります。これも足すと5,844,848円となります。そして4月末の4月限の売りは買い戻さずに、この2月限で引いた倉券をデリバリーします。4月限の売り価格は4845円で、これで受け取る代金は4845 x 1000 = 4,845,000円、そしてこれに対して受け取る消費税が8%になっており、387,600円となり、合計で5,232,600円の受け取りとなります。2月限の買いで払った代金プラス消費税と倉券保管代金を引くと、5,232,600 - 5,082,000 = 150,600円の利益となります(もちろんここから商品取引員に払う委託手数料等を差し引かなければなりませんが)。

 これは5%と8%の消費税の税額の差と、個人が受け取った消費税の納付義務を負っていないということによる利益です。もし税額が動いていないときであれば、買ったときに払う消費税も売ったときにもらう消費税も同じ5%で、ほとんど損益に関係しません(本体価格の違いのより税額に若干の違いが出ますが、微々たるものです)。ところが消費税率が5%の時に買って(消費税を払い)、税金が8%に上がってから売り(消費税を受け取る)と明らかに3%の違いが出てくるのです。これは制度過渡期にはどうしても起きてしまう現象です。これはどうしようもないこととしておそらくそのまま進められるでしょう。税差による今回のような益税はおそらくどうしようもないことでしょう。ただ1kgであれば問題ないでしょうが、これを大量かつ反復してやると営利目的とみられる可能性があり、納税義務が発生する場合もありえます。これはTocomでなくても小売の現物取引でも同様です。しかし、小売りの場合は売買スプレッドが大きいこと、そして何よりも税率が変わるまでの間、最短でも1日の相場変動リスクがあります。Tocomの場合は同時にほぼスプレッドがないような状態で、売買を同時に決めることができるというのが非常に大きなメリットとなります。この例の場合4月限が2月限よりも3%以上安くなければほぼリスクなしに儲かることになります。4840円の3%といえば145円です。これはありえません。なぜなら消費税とはまったく関係のない当業者が裁定取引を行い、限月間のスプレッドはある程度の理論値の範囲に落ち着くからです。ちなみに現在の金利とゴールドのフォワードレートから計算される先限と2番限の値差はほぼゼロ、つまり同じ値段で普通ということです。

 とまあ、机上で考える理論はかくのごとくです。このまま予定通り消費税が上がれば今後少なくとも2回はこういうことが起きます。消費税に関しては3月20日の記事で詳しく書きましたが、やはり目先の税金上げを取るよりは、税金が今後10%へ、そしておそらくさらに上がっていくことを考えた上での長期的保有が個人的にはおすすめです。5年以上の長期保有はそれを売却したときに、課税対象としての譲渡所得の優遇措置もあります。



以上

★池水氏の新著『THE GOLD ゴールドのすべて』好評発売中!!
http://www.hsquare.jp/the_gold.html
★池水氏によるブルースレポート
http://www.ovalnext.co.jp/bruce/

岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

最新コラム

新着ゴールドグッズ

一覧を見る