ゴールドコラム & 特集

Brexit の衝撃と今後

6月24日金曜日、まさかの英国国民投票の結果が「離脱」となった時、市場は大きなショックを受けました。僕も含めまさか離脱にはならないであろうとみんながみんな思っていました。それを覆す結果になりそうとなった時から、ゴールドは大きく買われ、日経平均は暴落、円高、ポンド安の大荒れのとなりました。ゴールドは金曜日東京朝の時点で1260ドルを割り込んでいました。英国EU残留を見込んで、この週(21日から)はゴールドは利食いと見られる売りで、1300ドル近くから1260ドル割れまでじわじわ下落を続けていました。そして迎えた投票開票でした。市場の思惑とはまったく逆の結果となったことで、ゴールドは金曜日の東京時間午後、1257ドルから一時1358ドルとほぼ100ドル上昇しました。その後はさすがに利食いの売りも出て1310?1340ドルのレンジでの神経質な取引となりました。


(ドル建てGold 1month)


この日はゴールドのみならず金融市場全体が大きく揺れました。ドル円は106.80円から一時99円まで暴落。なんと一日の間に8円近くの動きとなりました。ちょうどこの時間の最大の株式市場の日経平均は1,266円(前日終値から7.92%!)となんと16年ぶりの大暴落となりました。英ポンドも当然のごとく急落、1ポンド1.5ドルから1.32ドルまで12%もの下げを演じました。


(ドル円と円建てゴールドの動き:1month)


(ポンド・ドルの動き:1month)


その後の欧米も株安は広がり、金曜日の英国FTSEは3.14%、ドイツDAXは6.82%、フランスCACは8.04%、米国Dowは3.38%の暴落の一日となりました。そして国債には資金が集中し、利回りは急落。ゴールド、ドル、円と並び国債も「安全」の代表としてへ逃避対象となりました。


(米国10年もの国債の利回り:1month)


この原稿を書いているのはBrexitが投票で決定してから5日が経った6月29日ですが、ゴールドは1320ドル台で安定しています。今後、EU離脱に向かう英国の状況はやはりゴールドにとってはプラスになると思われます。この離脱へのプロセスには多くの段階があり、その度におそらく相場の変動率は上がり、「安全への逃避」としてのゴールド買いはまだまだ盛り上がる可能性が高いです。また世界経済の混乱で、FRBは我々が考えていた以上により「ハト派」的な政策を取らざるを得なくなり、次の利上げは早くても今年の年末以降になると思われます。そう考えるとやはりゴールドは今年後半に向けてより強気のマーケットになると思われます。この投票以前の取引レンジは1200?1300ドルでしたが、一日にしてそれが1300?1400ドルに変わりました。

ただし、短期的には下落の可能性も多いにありえます。その最大の不安材料はゴールドの市場内部要因です。まず、Nymexの投資家ポジションが再び1000トンを超えてきたこと。過去の例を見ると、1000トンを超えると「必ず」long liquidationが出てゴールドは反落しています。↓のチャートは6月21日のマーケットクローズ、つまり英国国民投票が始まる前の数字が最新ですが、日本時間7月2日土曜日の朝に発表される6月28日のマーケットクローズの数字はとんでもないロングになっている可能性があります。これ自体がマーケットにとっては大きな重石になる可能性があります。(見渡せばみんながロング!)

そして、これまで、そして今後もおそらくゴールドの価格を動かしている最も重要なドライバーである米国の金利動向について、現在CME FedWatchによると多くの市場参加者が利上げは2017年以降という見方が増えています。今後、アメリカの経済指標、特に雇用統計に目立った改善が見られた場合、この金利上げ見込みが大きく変わり、それによりゴールドにとっては大きな売りプレシャーになる可能性があります。



Gold ETFはNymexの投資家とは対照的に今年に入ってからその残高が一方的に増え続けており、それが減少する素振りは一向に見られません。年初の1458トンから現在は1940トンと482トンもの増加になっています。そして、その買いの勢いは増すばかりのように見えます。


(世界のゴールドETF残高の推移とゴールド価格:1年)


トータルして考えると中長期的にはやはりゴールドは強気のマーケットが続くと考えます。米金利上げのスピードは当初の期待に比べると非常にスローであり、緩やかながらインフレの動きが短期レートをまだしばらくマイナス圏に留めるでしょう。金曜日の下落にも関わらず、まだ米国の株式市場は依然として高止まり圏内であり、経済の減速傾向が見える今、まだ下落リスクがあると言えると思います。もちろん中国経済の不振も大きな心配材料であり、それが引き起こす世界経済への悪影響の可能性はいまだ大きく、英国のEU離脱はこの状況にさらに油を注ぐ可能性があり、やはりこの状況下ではゴールドが上がる可能性が高いと考えます。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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