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プラチナの供給不安

世界で5番目、南アで4番目のプラチナ生産者であるNortham Platinum CEO Paul Dunner氏は、先週金曜日の業績発表の折、世界の予想GDPの伸びで予測した需要に対して、何年にもわたる資金投資不足による生産の減少により、供給が大きく不足する事態になると予想しています。


(Metals Focus :Platinum & Palladium Focus 2016より、単位は1000オンス、1オンスは31.1035グラム)


Norham Platinumは、南アのプラチナ鉱山会社は、2025年まで年率1.5%という控えめな成長率で計算した世界のプラチナ需要予想である9 million toz(約280トン)にはまったくもって追いつくような生産はできないと予想しています。

280トンという数字は世界のプラチナ生産の80%を占める南アのプラチナ鉱山の生産にとっても比較的大きな数字です。そして南アの生産量は確実に減少の一途にあるのです。

南アのプラチナ鉱山は2006年に171トンを生産しそこでピークを打ち、今年は124トンがなんとかというレベルであり、来年はそこまでも到達しないと予想されています。

プラチナ価格の影響が非常に大きい二次供給のリサイクル供給も減少傾向にあり、現在地上に存在しているいわゆる地上在庫を全てかき集めてきても、将来必要になるプラチナの量には圧倒的に足りないという状況です。アナリストによると将来必要な280トン(9 million toz )に対してほぼ62トン(2 million toz)足りなくなるという計算をしています。

「同じ地点を永遠に堀り続けることはできません。現在の鉱脈は既に随分と古いものになっています。鉱石は創業第一日目から取り出され、鉱脈のインフラに投資、言い換えれば鉱脈を資本化しなければ生産を続けることはできません。」専門家の見るところ、この「資本化されたプラチナ」の量を考えると、これから少なくとも10年間は鉱山生産が飛躍的に増加する可能性はありません。現在の条件から割り出した生産量予想から大きく上ぶれする可能性はほとんどないのです。

その上、この現在の予測の前提にあるのは全ての資本化されたプラチナ鉱脈が、利益と共に生産できるという条件です。しかし、この条件が必ずしも満たされているとは言えません。多くの鉱脈が一箇所に固まっているわけではなく、多くの場合最終的に残ってしますのは、地域的ばらけた鉱山になるところなのです。また鉱脈の質、つまり含有率に関しても、より高く利益率も高いところはほぼ掘り尽くしているという問題もあります。

これらの問題を考えると南アのプラチナ鉱山生産は、新たな鉱脈に新たな資金投資がない限り、その量は大きく減っていくという予測ができます。近い将来の新しいプロジェクトの多くが、今は足踏み状態であり、新たな資金投入を待ち、その生産を再開するまで時間がかかると思われます。そして、この「時間」こそが、プラチナ鉱山業界が考えねばならぬ最も大切な軸です。

Norham Platinum CEOは「資金コストではなく、生産をするタイミングが大事。Northam CEOは、まさに今この将来の供給を確保すべく準備を始めるべきであり、決して価格が上昇し始めたときではない。」と言っています。

そして、その言葉通りNortham Platinumは新たなプラチナ鉱山開発に対する巨額な投資を既に始めており、その最大のものは42億ランドの6年計画であるBooysendal Southというプロジェクトであり、これは年間240,000 toz(約7.4トン)の生産が見込まれており2022年には安定供給が期待できるものです。

Northam Platinumはその埋蔵量を24.5 million onz(約762トン)としており、この量が全て、現在の相場で採算が合うものだとしています。

長期的構造的にプラチナの供給不足は避けられないようです。そうだとすれば、プラチナの下落を買い、長い目でプラチナの上昇を待つというのが単純かつ効果てきめんな投資戦略ではないでしょうか。


(プラチナ1年)


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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