ゴールドコラム & 特集

パラジウム?この不可思議なるもの

 今週はパラジウムについてちょっと突っ込んでみましょう。今年に入ってからほかの貴金属に比べてもっともしっかりしているイメージが強いのがパラジウムです。パラジウムを特に強いと考える人とこの強さを逆に短期的に下げる可能性につなげる見方が存在していますが、長期的には上昇という見方がマーケットでは大勢を占めているといえるでしょう。

1.パラジウムはもっとも下値抵抗感が強い


貴金属4品 5年チャート

貴金属4品 5年チャート


 4月第二週のゴールドの急落でパラジウムがほかのメタルほど大きく下がらなかった最大の理由は、NYMEXのロングポジションとETFという投資家のロングポジションがほかのメタルほど大きく減少していないことです。つまりゴールドではなだれをうつようにNYMEXもそしてETFも売りに回り、1530ドルを割ったところで次々とロングの売りが発動され、いわゆるsnowball effectで加速度的に下落し、1320ドルまで下落しました。


パラジウムのNYMEX投資家ポジションとETFポジション

パラジウムのNYMEX投資家ポジションとETFポジション


ゴールドのNYMEX投資家ポジションとETF

ゴールドのNYMEX投資家ポジションとETF


 上のチャートはパラジウムとゴールドを並べてみました。青い領域がETF、緑の領域がNYMEXの投資家ポジション、緑の実線がドル建ての価格です。2013年に入ってからの動きを比べると明らかにゴールドのETFとNYMEXポジションの減少が大きく、それと一緒に価格が急落しています。しかしパラジウムはゴールドに比べるとETFも特にNYMEXのポジションもそれほど大きくは減っていません。投資家はまだまだパラジウムに対して強気であると言えるでしょう。

2.パラジウムに強気の理由

 まずは供給サイド。パラジウムとプラチナの大きな違いはその生産割合のロシアの占める割合です。プラチナでは70%が南ア、ロシアは15%に過ぎませんが、パラジウムの場合はその立場が逆転。ロシアが47%、南アが33%でロシアが世界最大の生産国なのです。そしてそのロシアの国家在庫がほぼ尽きているというのが業界の通説であるので、プラチナよりも供給の不安はより大きいのです。


2012年パラジウムの生産 203トン

2012年パラジウムの生産 203トン


2012年プラチナの鉱山生産 176トン

2012年プラチナの鉱山生産 176トン


下のチャートは将来的なパラジウムの需給予想です。(2013年以降は予想値)今後供給不足がどんどん増えていくことが予想されています。


パラジウム需給バランス予想(トン)

パラジウム需給バランス予想(トン)


 一方、パラジウムの需要の7割は自動車触媒であり、とくにこれはガソリン車の排ガス触媒にメインに使われています。プラチナはディーゼル車がメイン。そのためプラチナの触媒需要は欧州の景気動向に左右されます。現在需要方面からプラチナの頭が重たいのはこのためです。一方、中国、インド、ブラジルと言った今自動車が売れているマーケットは圧倒的にガソリン車のマーケットであり、そこから需要が伸びるのはパラジウムなのです。パラジウムとプラチナは同じ白金系メタルであり、その性質も似通っています。今パラジウムの価格はプラチナの半分以下。コストカットのため、プラチナの代替として可能なところはパラジウムに置き換えようという動きもすすんでいます。こういった理由のために将来的にはパラジウムがプラチナの価格に近づくと考える専門家もいます。


2012年パラジウム需要284トン

2012年パラジウム需要284トン


3.パラジウムの不安材料

 強気が目立つパラジウムですが、これを逆読みして下値不安を読み取る向きもあります。まずは依然として歴史的にも高水準にあるNYMEXの投資家のロングポジションです。(下のチャートのピンクの部分)このロングが売り始めると大きく下がる恐れがあります。実際先週はずいぶんと売りがでました。そのために一時650ドルまで下げ、昨年末以来のレベルとなりました。このチャートに引いた赤いトレンドラインがありますが、ゴールド、シルバーの暴落がそれぞれのテクニカルブレーク(ゴールド1530ドル、シルバー26ドル)であったことを考えるとパラジウムはこれからそれが起こり、このNYMEXのロングポジションが一斉に売り出る恐れはまだ残っているのです。


パラジウム価格とNymex投資家ロングポジション

パラジウム価格とNymex投資家ロングポジション


 もう一つ弱い材料となりえるのは冒頭に書いたロシアの国家在庫です。もうほとんど底をついたという味方が大勢を占めていますが、2013年3月のスイスの輸出入統計をみてみるとこの期間のロシアからの輸入は2010年の1月以来の量に大きく伸びており、これは2012年1年間の総計の2倍!もの数字になっています。(下のチャートです)2012年、ロシアからの輸出量が大きく減ったのが、国家在庫の枯渇論の背景にありましたが、ここに来て急激にそれも2012年年間輸出量の2倍以上にも増やしたということは、うがった見方をすれば彼らは意図的に在庫をためておき、在庫枯渇論で相場が上がったときにまとめて売却したとも取れます。少なくとも市場が予想していたよりも遥かに多くの在庫を持っていたことはこの売りではっきりしました。今後またどれだけ売ってくるかわからなくなったのは、パラジウムにとっては弱材料ですね。


Net imports into Switzerland fron Russia

Net imports into Switzerland fron Russia


 もう一つ最後の不安材料があるとすれば株価。パラジウムは貴金属の中でももっとも株価に連動するメタルであります。株価の上昇が終わり下落に転じたときはそれとともに売られる可能性があります。


パラジウム価格とNymex投資家ロングポジション

パラジウム価格とNymex投資家ロングポジション


 以上、パラジウムは強弱、見方が分かれますが、下落があるとしても一時的になるのではないかと思います。やはり最後に効いてくるのは需給のバランス。ロシアは昨年在庫を溜めたとしてもそれを全部売り切ってまた今年は自転車操業に戻るのではないでしょうか。そして何故だかパラジウムの投資家は非常に長期的視野の人々が多いようです。ゴールドの暴落にもかかわらず、パラジウムは持ち続ける、やはり相当先行きに関して強気でないと売らずにすますのは難しいでしょう。下値はあっても600ドルだと思っています。

(2013/04/26記)

以上

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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