ゴールドコラム & 特集

ジョージ・ソロス氏、金投資から完全撤退

米証券取引委員会(SEC)が8月13日に開示した資料で、著名投資家ジョージ・ソロス氏のヘッジファンドが、今年4?6月期に金投資から完全撤退していたことが確認された。

世界最大の金上場投資信託(ETF)である「SPDR GOLD SHARES」の投資残高は、3月末時点で60万株(8,200万ドル)となっていたが6月末時点では一切の保有が報告されていない。重量ベースでは、1.87トン相当の金が同期間に売却された計算になる。

ジョージ・ソロス氏は、2010年1月に1オンス=1,000ドル台まで高騰した金価格について「究極のバブル」と喝破した後、10年3月末時点の520万3,208株(5億6,689万ドル、16.18トン)から11年6月末時点では4万2,800株(625万ドル、0.13トン)まで金投資を圧縮していた。その後は量的緩和第3弾(QE3)を巡る思惑から金価格が急伸した12年9月末時点で132万0,400株(2億2,714万ドル、4.11トン)まで再び金投資を拡大させていたが、同年末時点では60万株(9,721万ドル、1.87トン)まで持ち高を削減し、ついに完全撤退したのが今年の4?6月期だったと言う訳である。

依然としてBarrick Goldなどの金鉱山や金鉱山株価指数などに対する投資残高が確認されているが、少なくとも金価格に対する直接投資には終止符を打ったことが明確に確認できる状況にある。



■ポールソンも、金ETFの53%を売却

一方、「SPDR GOLD SHARES」の最大保有者であるジョン・ポールソン氏のヘッジファンドも、金ETF投資からこれまでにない大規模な撤退を行っている。同ファンドは金価格の強気見通しには変化がないとして、これまでの金価格急落局面でも4四半期連続で2,183万7,552株(67.92トン)を保有し続けてきた。

しかし、今回の開示資料では1,023万4,852株(31.83トン)まで、一気に53%も投資残高を削減したことが報告されている。その理由などの詳細については明らかにされていないが、金価格の急落でマイナスの投資パフォーマンスが続く中、従来の投資残高を維持し続けることが不可能な状態に陥っている模様だ。同様の動きは11年7?9月期にも報告されており、金価格に対する強気見通しを修正したというよりも、運用上の必要性から投資残高を圧縮した可能性が高い。



■ファンドの金市場撤退を象徴する動き

ドル建て金価格は、11年9月の1,923.70ドルをピークに、12年は総じて1,500?1,800ドルの高値圏で保ち合う展開になったが、今年は一時1,200ドル割れの急落地合になっている。米実体経済の回復が従来想定されていたよりも力強いものであることが確認される中、有事対応としての異例な金融緩和政策の縮小(=正常化)時期が近いとの見方が、「ドル売り・金買い」のマネーフローを「ドル買い・金売り」に逆流させている結果である。

こうした中、金投資の代表的なヘッジファンドが、金価格の安値を背景に金投資を拡大しているのではなく、逆に金投資からの撤退を加速させていることは、金相場の地合の悪さを象徴する動きと言えるだろう。

「SPDR GOLD SHARES」の投資残高は、今年に入ってからだけで累計437.59トン(32.4%)も減少しているが、その一因がジョージ・ソロス、ジョン・パールソンという二人の著名投資家の金市場からの撤退であったことが確認できる。

既に「SPDR GOLD SHARES」の投資残高は913.23トンまで縮小しているため、このまま現在のようなペースで大量売却が続く可能性は低い。ただ、著名投資家のファンドが金投資に見切りを付ける中、改めて金投資を再開するためのハードルは著しく高くなっている。

今回の開示資料はあくまでも4?6月期のものであり、7月以降に両ファンドが金投資を再開した可能性は否定できない。しかし、「SPDR GOLD SHARES」の投資残高は7月にも42.15トン、8月も14日現在で14.12トン減少しており、ファンドの金市場からの撤退にブレーキが掛かったとは言い難い状況が続いている。

この流れを修正するには、米連邦債務上限問題や欧州債務問題の蒸し返し、中国経済のハードランディング、アベノミクス失敗など、安全資産からリスク資産に傾斜するマネーフローに修正を迫る大きなイベントが要求されることになるだろう。実体経済・金融政策環境が正常化に向かう中、少なくとも金価格が他資産価格のパフォーマンスを大きく上回る可能性は低下している。



小菅努のコモディティ分析?メルマガで読み解く資源時代?
会員制の有料メルマガです(週2回以上、月間20本程度を発行)。
コモディティの基礎知識から専門的な分析まで提供しています。
詳細や購読のお申し込み方法は http://foomii.com/00025 をご覧下さい。

マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

最新コラム

新着ゴールドグッズ

一覧を見る