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世界でプラチナのETFが売れている

プラチナの上場投資信託(ETF)が売れている。

世界のプラチナETFの投資残高を重量ベースで見てみると、今年は連日のように過去最高を更新している。昨年末の149万7,780オンス(約46.59トン)に対して、6月3日時点では206万4,716オンスに達しており、年初からの累計では既に56万6,936オンスもの投資需要を創出している。これは2010年に記録した53万0,452オンスを早くも上回っており、プラチナETFは過去最高の販売状況にあると言えるだろう。

このような数値だけを並べても分かりづらいかもしれないが、昨年1年間のプラチナ供給量が564.0万オンスだったことと比較すると、そのインパクトの大きさが掴みやすいだろう。現状は、既に昨年のプラチナ総供給の1割程度を吸収できるだけの投資需要を創出した状態にあるのだ。ちなみに、昨年のETF投資需要は20.9万オンス、現物投資(バーやコインなど)も含んだ投資需要全体でも45.5万オンスであり、通年で需給均衡に近い状態が予測されているプラチナ需給見通しを一変しかねない程の投資人気がETF市場で発生していることは明らかである。

今年の貴金属市場では、金上場投資信託(ETF)の大量売却がメディア等でも大きく報じられている。米国の量的緩和政策がいよいよ出口に近づくとの観測を背景に、金市場からの投機マネー流出が加速している象徴として、金ETFの売却状況が注目を集めている。今年の売却量は既に487.3トンに達しているが、これは金ETFが初めて組成された03年から10年をかけて着実に積み上げてきた投資需要の18%相当が、今年に入ってからの5ヶ月強で一気に解約されたことを意味する。

一方、同じ期間にプラチナETFは投資残高を逆に38%急増させており、なおさらにその「異常さ」が目立つ状況にある。これがプラチナ価格の急騰局面で発生しているのであれば、何ら違和感はない。過去を振り返ると、プラチナETFの投資需要は価格動向と強く連動しており、「プラチナ価格高騰→プラチナETF需要拡大」といったフローは実際に幾度となく観察されている。

しかし、現在のプラチナ価格は、1オンス(約31.1グラム)=1,500ドル前後の安値圏を推移しており、2月6日に記録した年初来高値1,744.50ドルよりも、4月16日の年初来安値(1,374.60ドル)に近い価格水準で取引が行われている。金価格の下値切り下げ傾向が続く中、プラチナ価格もつれ安する低パフォーマンス状態にあるのが現状である。



■プラチナETFが売れている二つの理由

では、なぜこうした低パフォーマンスが続いているプラチナETFの投資人気が高まっているのだろうか?

一つ目の理由は、現行価格は長期にわたって維持することが不可能な安値との見方である。プラチナ生産最大手アングロ・アメリカン・プラチナ(アムプラッツ)の2012年度決算を見てみると、プラチナの生産コスト(cash operating cost)は1万6,364南アフリカランドとなっている。これを米ドルに換算すると、本稿執筆時点の為替レートで1,673ドルとなり、現在のプラチナ価格は平均生産コストを200ドル近くも割り込んでいる計算になる。

実際には、この価格を下回ったからといって、直ちに操業利益が確保できない状態になる訳ではない。08年のリーマン・ショック後にも生産コスト割れの状態が長期化する場面が観察されている。ただ、高コストの鉱区では既に採算割れが確実な状況にあることで、プラチナ鉱山への投資を継続するには不十分な価格水準であることは否めない。このため、現状は中長期的な視点から、安値でプラチナ買いのポジションを構築する好機と見られている。



そして二つ目の理由は、近い将来に南アフリカのプラチナ鉱山業界で大きな供給トラブルが発生するとの見方・警戒感である。昨秋には、労組間対立や賃上げ交渉を巡る対立が鉱山業界全体の暴動に発生し、南アフリカの鉱業生産はプラチナに限らず壊滅的な被害を受けた。プラチナ生産の場合だと、11年の486.0万オンスから12年には409.5万オンスまで、実に16%もの減産を強いられている。

この事件は、警察の武力介入で強引に沈静化に持っていったが、労組間の主導権争いや労使関係の悪化といったその根本原因が解消された訳ではない。

特に、ここにきて鉱山労働者・建設組合(AMCU)と全国鉱山労働組合(NUM)という二つの労組対立が先鋭化していることが、再び鉱山業界に混乱をもたらすリスクが警戒されている。ここ数年、急速に勢力を拡大してきたAMCUはNUMの影響力を一掃することを狙っており、ロンミンの鉱区では露骨に労組事務所の閉鎖や労組資格の喪失などを狙った有形・無形の圧力を強めている。6月3日朝には、昨年に34人もの死者を発生させたMarikana鉱区にあるNUM事務所が「何者か」の襲撃を受けて1人が銃殺されており、労組間対立の火種がくすぶり続けている。

現時点では、実際の供給トラブルは発生していないだけに、短期売買が中心となる先物(定期)市場のファンド筋は冷静な対応を続けている。寧ろ、短期的な地合悪化を受けて、売りポジションを拡大しているのが現状である。しかし、投資期間の成約がないプラチナETF市場では、プラチナ供給リスクが高まる一方で価格水準は安値に留まっている現状が、買いポジションを構築する好機と捉えられているのだ。

先物売り・ETF買いと投機筋の投資スタンスは二分されていることが、短期では上値追いに慎重ながらも、中長期的には絶好の買い場と現状を評価している向きが増えていることを強く示唆している。

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マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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