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やはり夏休みのガソリン価格は高い?エジプトの政情不安で原油価格が急騰中?

内外の原油価格が急騰している。国際指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油相場は、昨年9月14日以来の1ドル=100ドル台乗せを達成し、本稿執筆時点では更に101ドル台後半まで値位置を切り上げている。これは2012年5月4日以来、約13ヶ月ぶりの高値を更新となる。



原油価格高騰の直接的なきかっけになっているのは、エジプトの政情不安がエスカレートしていることだ。就任から1年を経過したムルシ大統領の辞任を要求するデモが広がる中、7月1日には軍が3日夕方(日本時間4日未明)までに混乱が収束しない場合には、政治介入を行う可能性を示している。あくまでも「軍事クーデターは容認しない」としているが、エジプトで初めて民意に基づいて選ばれたムルシ大統領が早くも退任を迫られる事態に、原油マーケットは危機感を強めている。

エジプトは、石油輸出国機構(OPEC)非加盟国ではアフリカ最大の産油国であり、直近統計では日量54.5万バレルの産油量が確認されている。加えて、天然ガスに関してもアルジェリアに次ぐ生産規模を有しており、エネルギー生産国としての重要性は高い。また地理的には、アフリカやペルシヤ湾岸と欧州を結ぶ輸送拠点としての重要性も高く、この地域の政情不安が原油高圧力に直結するのは何ら不思議なことではない。

しかも、こうした反政府デモがエジプト以外にも波及すると、2011年の「アラブの春」が再現され、北アフリカ・中東地区全体の政情不安に発展する可能性もある。チェニジアのジャスミン革命に端を発した「アラブの春」でエジプトやリビアは独裁政権の打倒に成功しているが、未だにシリアで大統領派と反体制派の内戦が続いていることに象徴されるように、問題そのものが完全に解決された訳ではない。マーケットが、最後の火種とみていたシリアの内戦が激化する中、それに呼応するようにエジプトでも政情不安の火種が拡大していることが、「地政学的リスク」の存在をクローズアップさせている。

原油供給トラブルのリスクを織り込む動きが活発化していることに加え、100ドル超えはないとみていたヘッジファンドが一斉に売りポジションの解消を迫られていることが、原油価格の高騰をエスカレートさせている。7月4日は米市場が独立記念日となることで、今週末は4連休を予定している市場参加者が多いことも、ややパニック的な上昇相場をもたらしている。「アラブの春」が展開された当時を振り返ると、10年末は90ドル水準で取引されていた原油価格が、11年5月には一時114.83ドルまで急騰している。

現段階ではあくまでも「供給リスク」に留まっているため、このまま110ドル、120ドルと急騰するような地合とは考えていない。しかし、エジプトの緊張状態が続く間は、ファンドは売りポジションの構築を見送り続ける可能性が高く、原油価格の高止まり傾向は一段と決定的な情勢になっている。

特に、この時期は北半球でガソリン需要が増加する「ドライブシーズン」を迎えることで、原油需給は引き締まり易い環境にある。足元で高まる地政学的リスクを考慮に入れなくても95?100ドル水準は正当化できると考えており、仮にエジプト情勢が早期に収束に向かったとしても、原油価格の大幅な値下がりを想定すべきではないだろう。

■ガソリン価格はじり高へ

資源エネルギー庁が7月3日に発表したレギュラーガソリンの店頭小売価格(全国平均)は、7月1日時点で前週比-0.1円の151.9円と、3週間ぶりに下落に転じている。6月上旬の急激な円高による原油調達コストの低下が反映された形である。

しかし、6月下旬以降に再び円安傾向が強くなっていることや、海外原油相場が高止まりしていることを考慮すれば、ガソリン価格は高値横ばい、ないしはじり高傾向を想定せざるを得ない。

実際、東京商品取引所(TOCOM)におけるガソリン先物相場(当限)は、1キロリットル=7万2,000?7万6,000円水準での高止まりが続いており、末端の小売価格が下落する兆候は全くみられない。逆に、今後の円相場の動向次第では、1リットル=150円台後半や160円台乗せの可能性も想定しておく必要があると考えている。

夏季休暇シーズンのガソリン価格は、140?145円というのがここ数年のパターンになっている。ただ、今年は151?153円程度であれば、コスト転嫁が遅れた安値とみる必要があるだろう。



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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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