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「ジブリの法則」という金融市場の都市伝説

日本の金融市場では、「ジブリの法則」という奇妙なジンクスがまことしやかに囁かれている。新聞などの通常メディアでは殆ど取り上げられないアノマリー(合理的な説明ができない現象)であるが、日本テレビ系列の金曜ロードショーでスタジオジブリのアニメーション映画が放映されると、その日のニューヨーク市場では為替や株式市場が大荒れとなったり予想外の内容となる経済指標が発表されたりすることで、週明け月曜日の東京金融市場も乱高下する可能性が高いというものである。

このため、年に5~8回程度あるジブリ映画の放送がある金曜日の夜は、一部の市場関係者にとっては特別な意味を有している。特に、近年はジブリ映画の放映は2週、3週にわたって連続で行われる傾向が強くなっているため、「ジブリの法則」が実現するか否かが話題になり易くなっている。

とりわけ、「天空の城ラピュタ」は高視聴率になり易いことに加え、劇中に「滅びの呪文 バルス」があることで、相場の暴落イメージにつながるためか、当日は暴落予想も多く聞かれる傾向にある。

■「ジブリの法則」の理論的根拠

もっとも、この「ジブリの法則」には全く理論的な根拠が存在しない訳ではない。というのも、ジブリ映画の放送時間が金曜日の午後9時~11時というのがポイントになるためだ。

米国では原則として毎月第一金曜日に雇用統計という重要指標の発表が行われるため、一般的に第一金曜日のマーケットは荒れる傾向が強い。雇用統計は、米実体経済の体温を測る重要指標となっていることに加えて、米国においては「最大限の雇用確保」が「物価安定」と並ぶ米連邦準備制度理事会(FRB)の責務とされていることで、金融政策(見通し)に与える影響も大きいためだ。しかも、この雇用統計は余り事前の市場予測が的中しない予測困難な指標であり、予想外の数値がマーケットの地合を一変させることも少なくない。

この米雇用統計は現地時間の午前8時30分に発表されるが、これは日本時間に直すと夏時間の時は午後9時30分、冬時間の時は午後10時30分となり、ちょうど「金曜ロードショー」でジブリ映画が放送されている最中の時間帯になる。雇用統計の発表が行われない日でも、この時間帯には重要経済指標が連続して発表される傾向にあるため、どうしても各種マーケットの値動きは大きくなり易い。

そして経済指標の発表などが行われなくても、週末を控えてファンドなどのポジション調整が活発化し易く、必ずしもファンダメンタルズと関係なく相場が乱高下することも少なくない。「週末要因」と簡単に言われるが、意味なく乱高下する可能性があると言う意味で、投資家にとって金曜日はもともと危険な日なのだ。

■実は怪しい「ジブリの法則」

そこで本当に「ジブリの法則」が成立するのかデータを検証してみると、残念ながら実際にはジブリ映画の放送日に特別に為替市場が大きく荒れている訳ではない。

2008年以降のデータで検証してみると、ジブリ映画は合計32本が放送されている(7月6日現在)。しかし、当日のドル/円相場の平均値幅(高値と安値の価格差)は1ドル=0.89円に留まっている。これは一見すると比較的大きな値動きになっているようにも見えるが、ジブリ映画の放送日に関係なく全営業日の平均値幅を調べてみると1.01円となっており、こうしたデータの検証方法を前提にする限りは「ジブリの法則」の成立を認めることは難しい。

今年(2013年)に限定しても、全営業日の平均値幅は1.27円となっているが、1月4日の「ハウルの動く城」の放送日は1.18円、1月11日の「コクリコ坂から」は0.77円、7月5日の「耳をすませば」は1.34円となっており、特別に大きな値動きが観測されている訳ではない。週明け月曜日までも含めて2営業日分の値動きで検証しても、平均で0.62円と特別に大きな相場変動は確認できていない。

ドル/円が駄目なら、日経平均株価はどうだろうか。

こちらは放送日の終値と、週明け月曜日の終値で比較してみると、平均値幅は136.23円となっている。一方、同じ期間の全営業日の平均値幅は130.50円であり、ドル/円相場と同様に日経平均株価に対しても大きなインパクトを認めることは難しい。今年に限定しても、平均値幅は191.30円だが、1月4日の「ハウルの動く城」は87.24円、1月11日の「コクリコ坂から」は77.51円というのが現実である。

投資家・金融市場関係者は、雇用統計など重要統計の発表がある日には自宅でジブリ映画を見ながら静かに経済指標の発表を待つ傾向にある評価する余地は存在するが、それ以上の積極的な意味を見出すことは難しい。

今年は、7月12日「平成狸合戦ぽんぽこ」、7月19日「猫の恩返し」、8月2日「天空の城ラピュタ」の放送が予定されている。その内、8月2日の「天空の城ラピュタ」は7月米雇用統計の発表時間と重なるため、再び「ジブリの法則」が話題になり易い。成立するのか疑問視される「ジブリの法則」だが、それを知りつつもお祭り騒ぎを楽しむのが、最近の投資家・市場関係者のトレンドなのかもしれない。



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大起産業

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

大起産業 情報調査室室長

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒業後、大起産業(株)に入社。営業本部、米同時テロ直後のニューヨーク事務所等を経て、現在は情報調査室室長。ほぼ一貫してコモディティやFX市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリストとして、金、プラチナ、原油、ゴム、穀物などコモディティ・マーケットの需給分析レポートを社内外に発表中。

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