ぬぐい切れない市場の警戒感、金と銀の連動性低下

ぬぐい切れない市場の警戒感、金と銀の連動性低下
3月19日、「キプロス・ショック」がいったん和らいだマーケットだが、警戒感はぬぐい切れていない。貴金属市場では金と銀の連動性が低下している。写真は2月に香港で撮影(2013年 ロイター/Bobby Yip)
[東京 19日 ロイター] 「キプロス・ショック」がいったん和らいだマーケットだが、警戒感はぬぐい切れていない。前日の落ち込みに比べユーロや日本株の戻りが鈍いほか、金と銀の価格連動性が低下するなど、通常ではみられない動きも出ている。
米景況感は依然保たれているものの、不動産抑制と景気維持の板挟みに苦しむ中国の景気減速懸念が強く意識されているという。
<打ち出されなかった景気刺激策>
キプロス問題で揺れたマーケット。貴金属市場でちょっとした異変があった。
通常、金と銀は連動しやすい。リスクオフ・イベントが起きて資金の逃避先として金価格が上昇するような場合、同じく実物資産として銀価格も上昇するのが通常だ。
しかし、18日の市場では金価格が一時1.2%上昇したのに対し、銀価格は終値では0.3%上昇したものの、一時は0.5%安と、金価格の動きと逆行した。「珍しいパターンだが、リスクオフで金が買われる一方、銀は工業用需要の面が重視され、景気減速懸念からの売りが出た。銅やアルミなどベースメタルの相場も依然軟調であり、中国の景気懸念が強いようだ」(ばんせい投信投資顧問・商品運用部ファンドマネージャーの山岡浩孝氏)という。
中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)は17日に終了したが、一部で期待されていた景気刺激策は打ち出されなかった。上海総合指数<.SSEC>は2月高値から前日まで約8%下落。景気刺激策が相場反転のきかっけになるとの期待もあっただけに、市場の一部では失望感が漂っている。
市場では「キプロス・ショックが広がった背景には、中国全人代で景気刺激策が打ち出されず失望感が広がっていたことがあった」(国内証券ストラテジスト)との指摘も出ている。
キプロスへの懸念がやや後退し、ユーロ/ドルは1.29ドル台後半まで反発しているが、前週末15日の1.30ドル付近には届いていない。日経平均<.N225>も247円高と反発したが、短期筋の先物買い戻しが中心で前日の下げ幅340円を埋める力強さには欠けている。東証1部売買代金は2兆円を割り込んだ。
<不動産抑制と景気刺激>
現在の中国は不動産価格の高騰という問題を抱えている。国家統計局によると、1月は主要70都市のうち53都市で住宅価格が上昇。ロイターが国家統計局のデータを基に算出した加重指数によると、北京の1月の住宅価格は前年同月比12.2%上昇と2桁の伸びとなった。中国政府は今月1日に不動産規制を発表したが、効果はまだ不透明だ。
JPモルガン証券のエマージングマーケット・エクイティストラテジーチームは18日、成長鈍化とインフレ懸念を理由として中国株と中国の銀行セクターをアンダーウエートに引き下げた。
市場では「大きな方針はすでに示されている。細かい政策は年末の中央経済工作会議を待たずしても打ち出される可能性はある」(楽天経済研究所シニア・マーケットアナリストの土信田雅之氏)との指摘もある。ファナック<6954.T>やコマツ<6301.T>など中国関連株は19日の市場では日経平均を上回る上昇率をみせた。米市場でもキャタピラーが逆行高。「中国の景気減速懸念をかなり織り込んできた可能性もある」(外資系証券トレーダー)という。
ただ、発足した習近平・李克強新体制が重点政策に掲げる都市化も住宅価格が下がらなければ、地方からの移住は困難になる。環境問題も短期的には景気の足かせだ。東洋証券・投資情報部シニアストラテジストは檜和田浩昭氏は「インフレ抑制と景気刺激の二律背反の政策を同時に進行するのは難しい。新指導部が妥協点を見出すまで春先はもたもたしそうだ」との見方を示している。
(ロイターニュース 伊賀大記;編集 宮崎亜巳)

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