ゴールドコラム & 特集

インドと中国の動向

世界最大のゴールド需要国であるインドと中国で最近、ゴールドがより厳しい規制の対象になってきているようです。


(インドルピーとゴールド)


まずインド。インドのモディ政権は、ここ数年ゴールドの輸入を減らすためにあらゆる手段を講じています。もともとほぼ無税であったゴールドの輸入に段階的に関税をかけていき、現在ではゴールドの輸入には10%の関税を課しています。そして、2年前には80:20ルールと呼ばれる輸入規制、つまり100を輸入すればそのうち80に付加価値をつけて輸出しなければ、次の輸入を許可しないというルールが実行されました。最近は高額紙幣の突然の廃止で、ゴールドにまさに「換金」する人が殺到。政府は今度はゴールドの輸入自体を禁止する方向に動くのではないかという噂が出ています。どうも政府中枢筋から宝飾業界へ伝えられた情報っぽく、一概にただの噂に過ぎないと否定することができない状況です。インドではゴールドは原油に次ぐ第二番目の輸入品であり、インドの経常赤字の大きな原因の一つとされています。原油はエネルギーとして使うものであり、そう簡単に輸入量を減らすことは不可能ですが、ゴールドであれば、インド政府としても政策で輸入を減少させることは可能です。そのために前述のような政策をとってきました。そもそもインドの民間が退蔵しているゴールドは25000トンあると言われており(世界最大量のゴールドを保有するFRBでも8133トンです)、常識で考えれば、さらなるゴールドの輸入は全く必要なく、政府はその「たんす預金」的な巨大な量のゴールドをマネタイズ、つまり表に出して現金化し、経済の血液としたいと考えているのです。そのためにゴールド預金やゴールドボンドなどゴールドを預かるための新たな商品を銀行経由で売り出しています。政府としての考え方としては大変まっとうな考え方であり、成功すれば素晴らしい経済政策なのですが、いかんせんインド国民がゴールドを買う理由は国や政府や銀行が信用できないからであり、それを銀行や国に預けて欲しいと言っても、国民にとっては全く意味のないものとなってしまいます。そして、今回の突然の高額紙幣の当日廃止の決定は、ルピーの現金を持っておく意味にさらに大きな疑問を抱かせることになったのは想像に難くありません。もし本当に政府がゴールドの輸入を禁止したとしても、おそらくは正式ルートではない、つまり「密輸」が横行することに歯止めをかけることはできないと思います。

そして中国。中国はゴールドを輸入するためには特別な許可が必要です。現在それが許されている銀行は外資系も含めて20行を上回りません。その許可がこのところ滞っているようです。中央銀行である人民銀行が、外資系の銀行がゴールドを輸入するためにその度ごとに改めて許可を申請するのですが、それが遅々として進まず、ゴールドの輸入量を抑えようとしている当局の非公式な意図があるようです。そのため、いくつかの銀行はゴールドを輸入すること自体をあきらめたようです。このところの人民元安にも象徴されるように、海外への中国国内投資家からの資金の移動に敏感になっているのでしょう。しかし、インドの場合とは違い、中国の場合、ゴールドの輸入は全輸入におけるわずか4%と軽微なものであり、インドとは根本的にそのインパクトが違います。インドの輸入禁止はゴールドのマーケットに大きな影響を与える可能性がありますが、中国はその意味ではマーケットにはそれほど大きな影響は与えず、限定的であるという結論になります。ただし、それでも世界の1位2位を競うこの2国が本当にゴールドの輸入を政策的に絞ってくるとするならば、それは来年2017年のゴールドのマーケットに暗い影を落とすことになるでしょう。


(香港からの中国ゴールド輸入量推移:kg )


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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