ゴールドコラム & 特集

2016年を振り返る

今年も気付けばもう12月も終わりに近づいてきました。貴金属のマーケットは前半と後半で対照的な動きとなりました。今週は簡単に2016年を振り返ってみます。


(ドル建て貴金属の年初来の動き)


(円建て貴金属の年初来の動き)


(ドル建てメタル・為替・円建てメタルの年初来高値・安値・騰落率)


今年は、全てのメタルにとって年初が安値でした。そして7月~8月まで一方的に上昇する相場となりました。前年12月後半の昨年最後のFOMCでFRBが初めて金利を上げたことから、まさにsell the rumor buy the factというがごとく、それまでは「金利が上がる」ことを材料に売られ続けてきたゴールドが、実際に金利が上げられたことによって、それが材料ではなくなり、逆にそれが材料でなくなったことで、買戻しが進んだのでした。それからは偶然か必然か、世の中の投資家を不安にさせる事件が年初からいろいろと起きました。上海株の暴落から発する世界の株式市場の下落、サウジアラビアとイランの断交、北朝鮮の水爆実験などなど。ショートカバーとsafe haven 的なゴールド買いからゴールドは夏にかけて1060ドルから1375ドルまで上昇し、シルバー、プラチナも基本的にそれに追従する上昇を見せました。ちょうど7月から8月にかけて、ゴールド、シルバー、プラチナが最も高かった時期は、年初からの上昇率はシルバーが52.6%、プラチナが34.2%、そしてゴールドも29.4%上昇しました。

年後半からは、Brexit そしてトランプショックの中のドル高、株高そしてメタル安となりました。そのため、12月20日現在の年初来の騰落率は、ゴールドが7.06%、シルバーが15.38%、プラチナは3.19%となっています。ピークからは随分と下がりましたが、それでも全貴金属が今年は年初よりも大きく上昇しており、今年は前半は最高の、そして後半はいまひとつ、全体で見れば良い年であったと言える年でした。パラジウムだけは他の3品と対照的な動きとなっており、価格のピークが年後半に来ています。

クリスマス前の現在はドル買いもとりあえず118円後半で休日前のポジション整理からの頭打ち、株買いもひとまず収まっていますが、特にトランプ勝利後はドル高の影響でゴールドおよび貴金属は売られている状態です。トランプ大統領が誕生するのは1月20日ですが、それに向けて彼の主張してきた、金融規制緩和、公共投資の拡大などを受けて、まずはその期待から大きくドルと株が買われているのが現状です。株高の動きは、景気上昇であり、そのために売られているのがゴールド、そして米国債です。まさにリスクオフからリスクオンへと投資の舵は大きく切られたと言って良いでしょう。米国債が売られることによって、米国の長期金利が急上昇しています。ほぼゼロに抑えられている日本の長期金利との金利差は、トランプショック以来拡大を続けており、ドル円が101円から116円までわずか一ヶ月でこれだけの円安に動いたのはまさにこの金利差の急拡大がその背景にあります。12月13日現在ドル円は115円ですが、ちょうど一年前は120円を超えたレベルにあり、今の金利差は当時の金利差よりもさらに大きくなっています。ということは、もしこの金利差がさらに拡大もしくはこのままで維持されたとしても、ドル高・円安はさらに進む可能性が高いと考えられます。そして、このドル高はまさにゴールドの売りの最大の材料になっているのです。下のチャートのドル円の動きとゴールドの動きはまさにそれをきれいに反映しています。


(日米金利差:米国長期金利、日本長期金利、ドル円、ゴールド)


繰り返しになりますが、現在のマーケットはトランプ次期大統領の経済政策の明るい面だけを先取りした期待相場です。果たしてこれがこのまま続いていくのかどうかは、来年に入り、トランプ政権が実際に稼動しないことには分かりません。トランプ次期大統領は高所得者への減税を掲げていますが、これは財政赤字を膨らませるだけであり、製造業の雇用不振の原因として、自由貿易(メキシコやアジアからの輸入)にその原因を置いていますが、ITの技術の発達やロボット化によって工業生産は逆に伸びており、雇用がそれ比べて伸びない理由は、自由貿易や他国にはないのは明らかです。もし経済政策が上手く運ばない場合、その責任をさらに外国に押し付けるのがポピュリスト政権のリスクです。そうなった時に、果たして株は、ドルは、アメリカ経済は、そして引いては世界の経済はどうなるのか、大きな枠組みへの不安は決して消えません。

来年2017年は、1月20日のトランプ大統領就任、3月には米国債務上限問題の期限到来、オランダ総選挙、4月はフランス大統領選挙、5月イラン大統領選挙、6月フランス国民議会選挙、そして8月から10月にかけてはドイツ連邦議会選挙、18年5月にはイタリア総選挙と特に米国と欧州にて重要な政治日程が控えています。2017年のマーケットはまさに「政治マーケット」になりそうです。

現在の楽観的な状況もいつひっくり返るか分からない、そんなリスクを考えておく必要があると思います。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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