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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.110

黄金のイクラ

2017/06/29

ご存じの方も多いと思いますが「イクラ」はもともとロシア語(икра)で「魚卵」の意味。なのでシャケの卵は「赤いイクラ」。チョウザメの卵、いわゆる「キャビア」は「黒いイクラ」。それでは皆さん、宮崎県にある「黄金のイクラ」って聞いたことがありますか?

しゃくなげの森
しゃくなげの森


生みの親は池辺美紀さん。お父さまが始めた魚の養殖場を継ぐだけでなく、深い緑の山々や清冽な岩清水といった自然環境を生かして「しゃくなげの森」を開き、お客さまを迎えています。
川魚といえば、すぐに思い浮かぶのが「ニジマス」でしょう。でもニジマスって、実は外来種で、明治期に日本へ持ってこられたそうです。池辺さんが育てている渓流の女王「ヤマメ」は日本在来種。その養殖には冷たい渓流と豊かな自然環境が欠かせません。

黄金のイクラ

そんなしゃくなげの森で2年以上育てられたヤマメから取れるのが「黄金のイクラ」。なぜこんな色になるのか? その秘密はエサにあるのだとか。イクラを生むシャケは生まれ故郷の川から海へ旅立ち、エビやカニを好んで食べます。甲殻類はカロテノイド系の赤い色素、アスタキサンチンを多く含むため、身はサーモンピンクに、卵も鮮やかなオレンジ色になります。一方、一生を川で暮らすヤマメはそういったものを多く口にすることがないので、卵が黄金色になるのです。
SNSで池辺さんの日常を見ると、真冬の極寒な朝も水に浸かって出荷選別作業をし、夏の台風シーズンには嵐の中も見回り作業を欠かすことなく、とてつもなく手間がかかっていることが分かります。しかもシャケより体格が小さいので1匹から取れる卵の量も少なく、それがなかなか一般に出回らない理由のようです。おせち写真

その魅力は何と言ってもルックス。ぼくはお正月、おせち料理に使いましたが、赤いイクラと混ぜても面白いでしょうし、和食だけでなくサラダやパスタの飾りなどにもできそうです。最近テレビをはじめ、数々のメディアに登場しているのもうなずけます。

さて、企業が持続的な利益を創出するためには三つのアプローチがあります。ひとつは競合よりも価値を高める方法。もうひとつは競合よりもコストを抑える方法。最後は無競争の状態をつくるニッチ戦略です。今後、この「黄金のイクラ」が価値を高め続けて大きな成長を目指すのか、成長はほどほどに一定の存在感を示す「すき間」を狙うのか、どうなることでしょう。

企業が持続的な利益を創出するための三つのアプローチ

これは推測を含みますが、既存のヤマメ養殖業者は事業規模がそれほど大きくなさそうです。とするなら、しゃくなげの森の成功を見て、競合が一気にマーケティング投下をしてくるリスクは小さいとみてよいでしょう。この先も、ある程度の規模までは順調な成長が期待できそうです。

一方、その市場があまりに大きくなると、新規参入を警戒しなければなりません。仮にこれがイクラ市場の10%を占める存在になったら、商社などが黙っているわけがありません。もちろんヤマメ養殖への参入は容易でないでしょうが、とはいえ競合の事業者に資本参加すれば、不可能な話でもありません。

中長期的に考えると「赤いイクラ」とは明確に異なる価値で一定のファンをつくる一方、とてつもなく大きな成長は望まないポジション。いわば「イクラ界のフェラーリ」を目指すことになるのではないかと思います。
思わず「こんなのあるんだ!」とつぶやきたくなる楽しい食材なので、池辺さんご自身の夢を聞くこともなく、芋焼酎を片手に勝手な夢想をしてしまうのでした。

ひとつ残念なのは、しゃくなげの森の「尺ヤマメ」(30センチ以上のもの)を、まだ食べていないこと。正確にはゴマ醤油に漬けた「尺ヤマメ漬け」はいただきましたが、釣れたてを炭火でガブリといかないことには、その真味はわからないハズ。嗚呼!いますぐにでも宮崎に飛んでいきたいなぁ。

コンセプトのつくり方

どうぞ、召し上がれ!