2016年7月、博多駅前で白昼堂々、7億5000万円相当の金塊が警察官を装った男たちに盗まれた。そのほかにも、最近、現金や金塊の強奪事件、密輸事件が相次いでいる。なにが起きているのか。元東京国税局主査の佐藤弘幸氏によれば、事件の背景には、悪人たちが生み出した“ヤミの錬金術”があるという。その手口とは――。

金塊はなぜ日本に持ち込まれるのか?

近年、空港や港でインゴッド(金地金、金塊)を日本へ持ち込もうとして摘発される事例が急増している。

2016年7月に転売目的で福岡に持ち込まれた160キロ、7億5000万円相当もの金塊が博多駅前で盗まれた。2017年4月にも天神のど真ん中で会社員が持ち歩いていた3億8000万円もの現金が何者かに強奪されたが、その現金は金塊を買いつけるための資金だったという。

2017年6月にも、約1億3000万円相当の金塊約30キロを服の下に隠して韓国から密輸したとして、愛知県岡崎市などに住む40~70代の主婦ら女5人が逮捕された。5人は2016年12月、金塊をタンクトップの内側に縫い付けたポケットに入れるなどして隠し、韓国・仁川空港から中部国際空港に密輸していた。密輸を手助けした運び屋と見られている。

なぜ金塊が日本に持ち込まれるかをみなさんはご存じだろうか? その理由は日本の「消費税」にある。

消費税が平成元年に導入されて早いもので30年近くがたつ。当初の税率は3%、その後5%、8%、そして2019年10月からは10%になる予定だ。税関での摘発件数は2014年に急増しているが、同年は税率が8%になった年であり、税率アップと密輸の増加は密接に関係している。

消費税は商品の販売、資産の貸し付け、サービスの提供などが課税対象とされている。国内から国内の取引だけでなく「輸入(個人輸入を含む)」も対象だ。インゴットも例外ではなく、購入時にはもちろん消費税がとられる。日本の消費税のように、諸外国にも似たような付加価値税や小売税がある。ただし、すべての国に消費税のような販売金額に課税する税金が導入されているわけではない。つまり、インゴットを買っても、国によって消費税が課税されないことがある。

インゴットに信用(本物かどうか)があり、金融インフラが整っていて、治安が悪くなく、そして消費税のない国・地域の代表例が「香港」である。日本では消費税8%がかかるのに、その近隣にある香港では消費税がかからない。この点に着目したのが密輸でひと儲けしてやろうという輩たちだ。