来年の干支、「黄金のイノシシ」に会いに昌原へ

 きたる2019年は己亥(つちのとい)年だということで賑やかだ。十干の一つ「己」は土、すなわち黄金の輝きを意味し、これが十二支の一つ、イノシシを意味する「亥」とセットになった。簡単に言えば、「黄金の亥年」が来るのだ。豊穣を意味する黄金とイノシシの出会い。これよりも良い組み合わせがほかにあるだろうか?

 よく考えてみると、今回の己亥年は1959年以来、60年ぶりに訪れる「黄金の亥年」だ。生涯に一度めぐり合うのも大変な己亥年、人生のターニングポイントのために、どこか隠れた幸せを探しに出かける価値はありそうだ。「どこに行けば黄金のイノシシの幸を享受できるだろうか?」 そう悩んだ末、数年前にたまたま立ち寄った、ある場所が思い浮かんだ。

昌原には「黄金のイノシシ」関連の場所がある
▲ 昌原には「黄金のイノシシ」関連の場所がある

■「黄金のイノシシ」、旅の始まりは馬山駅

 ソウルを出発した列車は、昼食時になる前、「馬山駅」に到着した。今回の「黄金のイノシシ」旅行が始まる場所だ。馬山地方には「黄金のイノシシ」に関する伝説がある。その伝説によると昔、金海・駕洛王の時代、王の寵愛を受けた後宮の美しい姫がいたという。そんなある日、姫が忽然と姿を消してしまった。落胆した王が方々へ人を送って探索に乗り出すと、ある漁民が、「骨浦」という地方で絶世の美女を見たと告げた。骨浦は馬山のかつての地名だ。

「黄金のイノシシ」旅行のスタート地点、馬山駅
▲ 「黄金のイノシシ」旅行のスタート地点、馬山駅

 今回の旅行では、伝説の中の「消えた美姫」を追って移動する計画を立てた。これのどこが「黄金のイノシシ」伝説なのか気になった人もいるだろうが、本番はここから。当時、王が急派した臣下が姫を探し出し、戻るように促すと、姫は金色のイノシシに変身して斗尺山の大岩の裂け目へと消えてしまったという。

■伝説で美姫が黄金のイノシシに変身し、姿を消した舞鶴山

 ここでいう斗尺山とは、舞鶴山(761メートル)の旧名だ。馬山駅で263番、265番、707番のバスに乗れば、山のふもとにある書院谷の入口に着く。馬山市外バスターミナルからも、同じ番号のバスに乗れば書院谷へ行くことができる。

舞鶴山から望む合浦湾の全景
▲ 舞鶴山から望む合浦湾の全景

 消えた姫を探しに出かけた舞鶴山は都市に属する山で、比較的行きやすい。そのせいか、平日の午前中にもかかわらず、山の入口でも既に大勢の登山客の姿が見られた。舞鶴山は自分の体力に合わせて登山コースを選べるので、誰にでも開かれている。

 孤雲台に上ってみることにした。登山道がきつくなるたび、はるか遠くにちょこっと見える合浦湾の景色を眺め、力をもらった。そうしてゆっくり1時間、ついに頂上へ着いた。孤雲台は、新羅末期の大思想家・崔致遠(チェ・チウォン)が遊覧しつつ修養した場所として有名だ。黄金のイノシシに変身した姫が消えた岩の裂け目も、このどこかにあるのではないか? 孤雲台に上がると、昌原の都市と海が調和した独特の風景が広がった。うららかな天気のお陰で、海の真ん中に「トッ島(トッソム)」がはっきり浮かんで見えた。

■「黄金のイノシシ」旅行の終着点、トッ島

 この辺りでまた姫の物語に戻ろう。姫が斗尺山で姿を消した後、わけもないのに人が姿を消す事件が頻繁に起こり、やがて王は、人間性を失った金色のイノシシが民を悩ませていることを知った。ついに王は兵士を送り、舞鶴山を包囲して、弓と槍で金色のイノシシを追い立てるよう指示した。

イノシシの形をした「トッ島」
▲ イノシシの形をした「トッ島」

 兵士たちが舞鶴山のイノシシを攻撃するや、一筋の不思議な気が島へと伸びて消え、島はイノシシが横たわっているような形に変わった。その島こそ「トッ島」だ。「トッ」という島名も、イノシシを意味する古い言葉だ。馬山駅から始まった「黄金のイノシシ伝説」旅行は、舞鶴山を経て、ついに終着点のトッ島へと至る。

 トッ島は面積が11万2000平方メートルしかない小さな島だ。ここへ行くためには、書院谷の入口で255番か263番のバスに乗ればいい。馬山消防署の向かい側にある停留所でバスを降り、昌原沿岸クルーズターミナルで船に乗った。船は毎日午前9時から午後5時まで、30分おきに出発する。

 ターミナルから船で10分。カモメの群れが案内する道に沿って走っていくと、すぐにトッ島へ到着した。船着き場に降りると、黄金のイノシシ伝説がある島にちゃんとたどり着いた、という印象を抱くことができた。船着き場には「福をもたらす黄金のイノシシ島」という文言がはっきり記されていた。

 裏に回ると、3メートルくらいある筋肉質の大きなイノシシの像が訪問客を迎えた。美しい姫がこんな荒々しそうなイノシシに変身したとは容易には想像し難いが、なぜか福を与えてくれそうな、ただ者ならざる様子ではあった。

トッ島の船着き場には、「福をもたらす黄金のイノシシ島」という文言が掲げられている
▲ トッ島の船着き場には、「福をもたらす黄金のイノシシ島」という文言が掲げられている

 黄金のイノシシが指し示す方に向かって歩いていくと、本格的な島内トレッキングが始まった。島は全ての道が外周の道につながっていて、どの方向に回っても全ての場所を見ることができる。島の縁に沿って歩いてみるとミニ動物園や吊り橋などが現れ、船着き場の反対側では、ヨットに乗って島を遊覧する人の姿もかなり目についた。

島の外周の道に沿って、昌原彫刻ビエンナーレの展示作品が置いてある
▲ 島の外周の道に沿って、昌原彫刻ビエンナーレの展示作品が置いてある

 トッ島の散策路は、一人で歩いても退屈しない。冬の天気も顔負けというくらい、道に沿って見事にバラが咲き、随所に立派なカエデの木も誇らかに立っていた。散策路を覆う落ち葉は、一歩踏み出すたびにカサカサと鳴った。そうやっておよそ10分ほど歩くと、この島のハイライトといえる頂上に着いた。トッ島は、西側から見るとイノシシに似ている。頂上に登ってはじめて、島全体の形が目に入ってきた。はるか彼方には馬昌大橋が架かり、一幅の絵画の点睛となった。

馬昌大橋が見えるトッ島の頂上
▲ 馬昌大橋が見えるトッ島の頂上

「島と呼ぶな/海中へ飛び込んだ新羅の月と思おう」。詩人の李光碩(イ・グァンソク)はトッ島をこう歌った。トッ島は、周囲の海に月影が映るということで「月影島」とも呼ばれる。月光を吸い込んでいるからだろうか。それとも、陽光に輝く島の姿のせいだろうか。頂上に登ると、なぜ「黄金のイノシシ」なのか、ちょっと分かったような気もした。

トッ島の海岸散策路のそばをヨットが走っている
▲ トッ島の海岸散策路のそばをヨットが走っている

 頂上から降りていく道。船に乗って出発した昌原の市街地が目に入ってきた。それと共に、自分が辿って来た生涯を振り返ってみる余裕も生じた。今回の旅行は午前中に山、午後には海へと続くルートだったことで、より多くのものを見、より多くを感じることができた。何かが空になったとき、別の何かで満たせるのが、まさに余裕というものではないだろうか。今回の旅行を通して、空になったところをトッ島の黄金のイノシシがもたらす「福」が一杯に満たしてくれると期待してみたい。

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