焦点:中銀の金購入意欲が減退、新興市場国の環境変化などで

焦点:中銀の金購入意欲が減退、新興市場国の環境変化などで
8月12日、金相場の歴史的な上昇で重要な役割を果たしてきた中央銀行の金購入は、今や熱が冷めつつある。写真はウィーンで7月撮影(2013年 ロイター/Leonhard Foeger)
[ロンドン 12日 ロイター] - 金相場の歴史的な上昇で重要な役割を果たしてきた中央銀行の金購入は、今や熱が冷めつつある。公的セクターによる金購入が減る兆しが出ており、新興市場国の購買力低下や金相場下落によって、中銀の購入ペースはさらに落ち込むと予想される。
公的部門の金購入は、市場が最も不安定になった時期でも主要な支えの一つであったし、新興市場国の政府機関は資産構成のバランスを取るために金を買い増してきた。
中央銀行が世界的に見てネットの買い手になったのは2010年で、その年の購入量は77トンだった。09年は34トン、08年は235トンの売り越しで、その前の20年も大きな売り手であり、有名なところでは相場が20年来の安値で推移していた1999年から2002年の間に、英国が395トンを売却した事例がある。
金取引業者の国際団体であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、昨年はこの購入量が48年ぶりの高水準である534.6トンに達した。しかし今年は400トンにまで減るだろうという。
WGCの政府部門担当ディレクター、ナタリー・デンプスター氏は「第2・四半期に(予想される)さらなる購入量の鈍化は、新興市場国通貨の下落と外国為替市場における介入の増大によってもたらされそうだ」と述べた。
ソシエテ・ジェネラルは来年には中銀の金需要が約300トンにまで下振れすると予想する。金相場が今年4月の急落後に低迷していることや、外貨準備の分散化を進める理由が薄れているためだ。
同社アナリストのロビン・バール氏は「誰もがドルが強含んでいく事態を受け入れているようだ。だから恐らく、各国中銀が既にドル以外に資産を分散化しているなら、これ以上分散化したくないと思うに違いない」と話す。
その上で、新興市場国の中銀が分散化を行ったとすれば、それはもうあらかた済ませただろうとの見方を示した。
<ドル高の影響>
米連邦準備理事会(FRB)が早ければ9月にも資産買い入れ(量的緩和)の縮小を開始する意向を示唆しているため、新興市場国がFRBの大量の緩和マネーの流入を吸収する目的でドルを買って自国通貨の輸出競争力を維持しようとする動きは弱まっている。
マッコーリーのアナリスト、マシュー・ターナー氏によると、トルコやブラジルは自国通貨安阻止のために市場でドル売り介入を行っていたが、ドル高が進んでいる中で介入に役立たない金を買う原資も意欲も薄れているという。
新興市場国は2008年の金融危機のさなか、FRBが量的緩和第1弾を開始したことで金投資に熱を入れ始めた。だがFRBの政策変更が予想され、相場が2011年の史上最高値のオンス当たり1920ドルから33%も安い弱気局面にある今の状況で、金を保有し続ける根拠は弱まっている。
有力金市場コンサルタントのジョージ・ミリング・スタンリー氏は「金の10年ないし12年にわたる着実な相場上昇は、中央銀行に購入を拡大できるという多大な自信をもたらした。(ところが)今年に入ると、数回の投機的な売り攻勢が見られ、一部の中銀は購入量を幾分減らすことを決めたかもしれない」と語った。
欧州各国の中央銀行は、1999年以降は中央銀行金協定(CBGA)によって保有する金の売却量が制限されてきた。
それでも欧州連合(EU)の欧州委員会が、4月に支援が必要になったキプロスが4億ユーロ(5億3440万ドル)の資金調達のために金準備を売却する必要性を認めた後、ユーロ圏の重債務国が金準備を資金繰りに活用するのではないかとの思惑が浮上したことは、今年の金市場を襲った大きなショックの一つだった。
ミリング・スタンレー氏は、欧州委員会がキプロスによる金準備売却の可能性に言及した際には、市場心理に影響があったのは間違いないとしている。
もっとも同氏は「金相場が再び1000ドルを下回らない限り、イタリアやスペイン、ポルトガルなどの国が突然金準備を売り始める事態は、現実的には起こりそうにない」と語った。
ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインといったユーロ圏周縁国は合計で3230トン強の金を保有し、現在の相場で換算するとその資産価値は1005億ユーロに上る。
(Clara Denina記者)

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