ゴールドコラム & 特集

ロジウムの話

メタルで今年一番上がっているのはニッケル。貴金属ではロジウムです。

歴史上もっとも高い価格をつけた金属はプラチナでもなければゴールドでもありません。それはロジウムです。ロジウムはいわゆる白金族(Platinum Group Metals)の一つで文字通りプラチナの仲間です。プラチナやパラジウムと一緒に産出されます。ちなみにPGMにはプラチナ、パラジウム、ロジウムのほかルテニウム、イリジウム、オスミウムの6つのメタルがあります。この中で先物市場に上場されているのはプラチナとパラジウムだけで、いわゆるディーリングマーケットが存在していつでも価格があり取引できるのはパラジウムまでです。ロジウム以下のメタルには先物市場が存在しておらず、常にマーケットが存在しているわけではなく、取引をするためには少し苦労をします。その中でもロジウムはもっともマーケットに近いメタルであり、かろうじてスポットマーケットが存在しています。(ほぼ欧米の時間帯に限られますが。)そしてこのロジウムこそが、かつて2008年に1万ドルをつけ、歴史上もっとも高い価格で取引されたメタルなのです。

(JMロジウムドル建て価格)



(プラチナドル建て価格)



この1万ドルの背景は2008年年初の南アの電力不足のときでした。プラチナもこのときに2300ドルという史上最高値をつけました。そしてその半年後には今度はリーマンショックにより米国のBig3(GM、クライスラー、フォード)破綻というニュースで、プラチナは800ドルまで暴落、ロジウムも1000ドル近くまで急落したのでした。実際買いのときも売りのときもBig3の一角が大きく買いあがり、大きく売り込んだとの噂は絶えず、おそらくそれは事実であったろうと思われます。供給不安から、材料として絶対必要な自動車会社が買いに走り急上昇、一旦破綻の恐れがでると流動性(キャッシュ)を求めて、彼らがもっているもっとも換金しやすいアセットがPGMだったのでしょう、今度は強烈に売ったようでした。2008年のPGMの動きはあとにも先にもないほど広いものとなり、その高値はその後も更新されていません。プラチナはまだしもロジウムの1万ドルはもう二度とありそうもないと思えますね。(絶対ということはないので、ひょっとしたら再びそんなマーケットがあるかもしれませんが。)

さて今年に入ってからのロジウムは、昨年12月は900ドルを割れていたのですが、2014年年初に1000ドルを超えてからじわじわと上昇、この原稿を書いている8月はじめには1285ドルとほぼ30%近い上げになっています。プラチナは7.8%、ゴールドは7.6%、シルバーは6.5%なので貴金属の中ではとび抜けて上昇しています。ロジウムが突出して上がって、まだこれからも上がりそうな状況にあるのはどうしてでしょうか。

「需要家の買い、おそらくは未来の需要分の先食い」

ロジウムはもっとも効率的な自動車触媒だといわれています。にもかかわらずプラチナ、パラジウムと比べるともっとも小さなPGMマーケットであり、その供給も限られています。そしてETFや投資家のロングという見える形での「地上在庫」はまだ意味のある量では存在していません。つまりバッファーとなるようなものが何もないのです。そのため、もし将来的に供給不安があるようなときは、需要家である自動車メーカーなどは将来の分まで見越して買っておきたいと考えることはきわめて自然です。またパラジウムが大きく上昇してきていますが、ロジウムとの値差が縮小してきたこともロジウムが上昇する理由になっているかもしれません。なぜならばパラジウムをこの価格で買うのであれば最も効率的なロジウムに乗り換えるという動きがあってしかるべきだからです。

「投資家の買い、ETFそして現物の買い」

ロジウムETFの残高は現在120k toz(3.7トン)の残高であり、これは一年間の鉱山生産の17%です。ちなみにパラジウムの残高3mil toz (93トン)は年間生産量の50%!ですから、見方によればまだまだ資金の流入があるとも思えます。しかしプラチナやパラジウムと違うのはレバレッジのかかった先物市場が存在せず、マーケットの実態が本当の需給に近いと考えられるとすれば、このETF残高はいいところなのかもしれません。

(ロジウムETFの残高とロジウム価格)



2008年の1万ドルというのはさすがにもうないのかもしれませんが、パラジウムの上昇が続く限り、ロジウムも上昇基調が続きそうな気がします。とりあえずはプラチナとの逆転がまずありえるでしょうね。残念ながら日本ではまだ個人がロジウムへの投資ができるまでにはいたっていません。海外ではETFができ、一部ではロジウムの投資用インゴットまで販売されているようです。日本も同じような動きになれば投資対象が広がるのですがね。

「ロジウムの需要と供給」(Johnson Matthey社調べ)



ロジウムの年間生産量は約21トン(678,000toz)でプラチナ・パラジウムの1/10です。その生産の80%を南アが占めます。また需要の80%が自動車触媒。そしてここ2年間は供給不足にあるというのがわかります。上昇してしかるべし、という状況にありますね。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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