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株価をみる金・白金スプレッドとGSRの視点?貴金属市場の警告? 杞憂??

東京工業品取引所(TOCOM)では貴金属先物取引として金、銀、白金、パラジウムの4市場が開設されている。英語でpurecious metal(貴重な金属)とされるようにその存在の希少性という意味では共通する部分もあるが、当然に各貴金属の需給や投資環境は大きく異なるため、その値動きはまちまちである。

各貴金属相場がどのような値動きをしているのかは、それ自体も興味深い分析対象になる。ただ、マーケットではそれと同時に、貴金属相場の相互関係に注目する分析手法も存在する。そこで今回は、最近大きな動きを見せている比較的有名な二つの指標を紹介したい。

■現在は、リーマン・ショック、欧州債務危機と同じ?

まず一つ目が、金・白金スプレッドである。すなわち、金と白金の価格差である。

貴金属の需給分析では、「白金>金」という価格バランスが通常の状態とされる。金と白金では単純に生産コスト環境が大きく異なり、1オンス当たりの生産を行うには白金の方がより大きなコストが要求されるためだ。

例えば、貴金属調査会社GFMSの試算だと、2013年時点の生産コスト(Total Cash Cost)は、金が1オンス=767ドルとなっているのに対して、白金は1,191ドルである。実際にはこれ以外にも鉱山会社の事務部門の運用コスト、ファイナンスのコストなども加算されるが、純粋に鉱山生産という分野に限定すれば、白金は金価格を424ドル上回って然るべき貴金属ということもできる。

市場規模を比較しても、金の年間産出量が3,022トンに対して、白金は僅か200トンである(2013年実績、GFMS調べ)。毎年、金は白金の15倍もの供給が行われているため、単純な希少性という観点でも「白金>金」という価格バランスが正当化され易い。

そこで実際の金・白金スプレッドをみてみると、今年9月以降に急激な縮小圧力が発生していることが確認できる。今年後半に入ってから既に縮小の兆候はみられたが、8月末の1オンス=137.30ドルが9月末には88.90ドル、直近の10月6日時点では41.90ドルまで縮小している。10月6日のアジアタイムには、一時10ドルを割り込んでおり、「白金>金」の価格バランスが、「金>白金」に逆転する可能性も意識される状況になっている。

この金・白金スプレッドであるが、一般的には景気が好調時には拡大し、逆に不調時には縮小する傾向にある。金は「安全資産」として景気の不調時に買われる傾向が強い一方、白金は工業用金属として景気の好調時に買われる傾向が強いためだ。

実際に、2000年以降に金・白金スプレッドがゼロ状態に接近(または逆転)したのは、リーマン・ショック直後の2008年末、そして欧州債務問題が深刻化した2011?12年の2回のみである。即ち、パニック的な景気後退局面でしか起こらない現象なのである。

足元では世界的に株高傾向が続くなど、世界のリスク投資環境は総じて良好な状態にある。株高傾向にややブレーキが掛かっているとは言え、高値水準での取引が続いていることには変わりがない。それにもかかわらず金・白金スプレッドが急激に縮小していることは、世界経済がリーマン・ショックや欧州債務危機に相当する景気減速プレッシャーに晒されていることを示唆しているのではないかと危機感を抱いている向きも多い。

最近の白金相場急落が単純なオーバーシュート的な動きであれば大きな問題がないが、継続的に白金相場が金相場のパフォーマンスを下回る状態が続き、「金>白金」への固定化が進むようであれば、リスク投資に対して慎重姿勢が求められよう。




■金相場急落局面でもリスク回避?

そして二つ目が、金・銀レシオ(ゴールド・シルバーレシオ、GSR)である。これは、1オンス当たりの金価格と銀価格の比価である。この数値の上昇局面は金が銀に対して割高(銀が金に対して割安)、逆に下落局面は金が銀に対して割安(銀が金に対して割高)になっていることを意味する。

白金同様に銀にも工業用金属としての性格があるため、GSRの上昇局面は景気縮小期、GSRの下落局面は景気拡大期といった単純な景気判断指標としても活用される。ただ、このGSRが金融市場の一部で強く信奉されているのは、単純な景気トレンドの判断指標のみならず、金融市場の混乱を予告する指標として注目されているためだ。

過去のGSRをみてみると、概ね30?100倍のレンジで推移しているが、特にこの数値が大きく上昇し始めた局面では、それと前後して金融市場に何らかの混乱が生じる傾向にある。必ずしも「前」と言えずに「前後」としなければならないのが残念な所だが、過去にGSRが80?100倍前後でピークアウトしているのは間違いのない事実であり、GSRが大きく上昇するような動きはリスク投資への警告と受け止める向きがある。

例えば、リーマン・ショックの発生までは正確に予告できなかったが、サブプライムローン問題を受けて株価が一番底を付けた時点で強い警告を発し、その後の二番底、三番底、四番底へのパニック的な金融市場崩落に対しては継続的に警告シグナルを発することに成功している。

GSRの80?100倍という水準は、金・銀価格バランスが景気減速シグナルを全力で鳴らしている状態と言え、それに伴い金融市場で何か大きな価格変動が見られる可能性が高まるのは当然とも言える。そこで足元のGSRをみてみると、年初の段階では55倍前後だったのが、その後は60?65倍水準での保ち合いを経て、10月はついに70倍を超え始めている。これは約4年ぶりの高水準である。

金相場はドル高環境において急落地合を形成しているが、それ以上に銀相場が大きな下げを記録していることが、GSRの上昇を招いている。近年は80倍前後でピークアウトする傾向が強く、GSRの警告が正しかったのか杞憂だったのかが問われる局面が近づいている。GSRが80倍を大きく超えるような局面を迎える前に、景気への信頼を回復して金・銀価格バランスの歪みを是正できるのかに注目したい。




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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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