ゴールドコラム & 特集

今週はゴールドに絡んだ二つのトピック(閑話です。)

「アップル株とゴールド」

もはやもう数年前に一度アップル株とゴールドの値動きを比較したことがありました。動きがとてもよく似ていたので。久しぶりにまたちょっと見てみたいと思います。チャートを見てみると2013年9月頃からゴールドとアップル株はその連動がはずれ、アップル株は上昇、ゴールドは逆に調整入りで明暗がはっきり分かれました。下のチャートは2007年年初を基準としたゴールドとアップルのパフォーマンスを較べたものです。アップル株は約12ドル。ゴールドは647ドルでした。ゴールドは2011年9月に1900ドルまで上昇し、高値を更新、その後は下落基調に。一方アップル株は2013年の年初からの下落をゴールドとともに始め、ゴールドは1200ドル近辺、アップルは60ドル近辺で下げ止まり、その後ゴールドは現在に至るまでこのあたりの価格帯での低位推移になっていますが、アップル株は上昇を続け11月26日には史上最高値である119ドルをつけ、現在でも110ドル近辺で取引されています。これを2007年からのパフォーマンスで考えるとアップル株は790%の上昇、一方ゴールドは88.3%の上昇にとどまっています。



先週、アップル創業者の一人Ron WayneがBloombergTVでしゃべったところによると、1976年、彼は彼が持っていたアップル全体の10%に当たるアップルの株をわずか800ドルで売却し、それに関して彼は「まったく後悔していない。」と語ったようです。アップルコンピュータが上場された1980年に彼がそれをゴールドに換えていたとすれば800ドルが現在は1750ドルになっていました。しかしもし、アップルの株を持ち続けていれば彼は億万長者になっていたはずです。本人はまったく後悔していないと言ってますが、僕ならめっちゃ後悔しますね。笑。実際彼は売った株式代金でゴールドを買ったとのことです。

Wayne はAtari(懐かしい!)で働いていたときにSteve Jobsに会ったそうです。彼はAtariのゲーム機のマニュアルを製作していたようですが、Steve JobsやSteve Wozniakと気が合ったようです。(彼らはWayneの半分の歳の若者たちでした。)そして彼らが新たなコンピュータのプロジェクトを会社化し、「大人」として見守るのが彼の役割となり、アイザックニュートンがりんごの木の下で座っている最初のロゴを作成したのでした。

現在彼は80歳であり、引退していますが、生活は年金に頼っています。彼はBloombergT Vの中でのインタビューで、アップルをやめたことは決して後悔していないと言っています。JobsもWozniakもまるでつむじ風のような連中で、新しい製品を作りたかった彼にとって、コンピュータのマニュアルを書いて人生を過ごすことは耐え切れなかったのです。

「もしアップルに残っていたら、今頃きっと墓場でもっとも金持ちな人間になっていただろう。製品開発マネジャーとして、来るべく20年間を大きな部屋で紙をめくりながら過ごすことは考えられなかった。自分には自分の情熱があったから。」

人間何が幸せかは一人一人によって違いますね。ただひとつだけ単純な数字の比較だけをすると、少なくともゴールドを持っているより、アップルの株を持っていたほうが、はるかにパフォーマンスがよかったことは否定できません。やっぱりWayneさん、もったいないことをしました。(笑)

「ゴールドと原油」

さて今度は話題変わって原油とゴールド。この二つはいわゆるコモディティ(商品)の双璧とされます。その関係性が時折取りざたされます。商品全体が売られたり、買われたりする時があり、そのときは同じように動くことがありますが、過去の流れをみると原油とゴールドは必ずしも連動して動くものではありません。現在WTI原油は60ドルを大きく割り込んで直近では55ドルまで下落しています。ゴールドはしっかりしていましたが、ここに来て少し下落基調が見えてきましたが、原油の下げに較べるとまだまだ小さな動きに過ぎません。原油はそのエネルギーとしての特性から経済全体に与える影響力が大きく、ゴールドはやはりあくまで株や債券、通貨といった一般的な金融商品へのヘッジする資産としての位置づけであり、自ずからその存在位置が違います。原油は当然のことながら、産油国の命運や国際政治の力学が働く市場であり、ゴールドのマーケットは原油と比べるとまだ現物の需給、金融的需給が反映されたより「フェア」なマーケットだと言えます。今回の原油の下げは、OPECが減産に踏み切らずに加盟の国々が価格を引き下げたこと(政治的理由)、そして国際エネルギー機関(IEA)が世界の石油需要見通しを5ヶ月間に4回にわたって下方修正したこと、シェールオイルの増産(需要の減少)などがその引き金となっています。この結果世界景気の減速の想像からの株売り、ドル売りにつながっています。今年の原油の高値は108ドルというレベルがありました。現在それがほぼ半分の55ドル。エネルギー価格が半分になるということの経済に対する影響は、非常に大きなものがあります。本来原油安は世界経済にプラスとされてきましたが、このところは世界景気の減速を象徴として、マイナスととられられているようです。ゴールドとはまったく乖離した動きになっているのが↓のチャートをみてもわかります。原油の動きからのドルや株の動きに反応してゴールドが動くというのが現在のゴールドと原油の関係です。

(ドル建てゴールドとWTIの動き:10年)



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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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