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経済危機のロシアで金準備の増加が続く

国際通貨基金(IMF)が1月27日に公表した最新統計で、ロシア中央銀行が昨年12月に金準備保有高を前月から20.73トン増加させ、1,206.68トンとしていたことが判明した。ロシア中央銀行が金保有高を増やすのは昨年4月から9ヶ月連続のことであり、過去1年間で171.46トンもの金を中央銀行の資産に組み込んだ形になる。

ウクライナ情勢を巡って欧米諸国から強力な経済制裁を課せられる中、ロシアでは外貨準備の急激な喪失に晒されている。ロシア中央銀行によると、昨年12月時点の外貨準備は前月の4,189億ドルから3,855億ドルまで減少しており、2009年8月以来で初めて4,000億ドル台も割り込んだ。

原油相場急落でロシア通貨ルーブル相場が急落する中、ルーブル防衛目的で外貨準備の取り崩しを迫られていることに加えて、市中銀行のドル・ユーロ不足を緩和するためにも、外貨資産の供給オペも隠している結果である。ルーブル安(ドル高)が進んでいる影響で、特にドル建てベース計算された資産は、過去1年で約4分の1が失われている。

外貨準備が4,000億ドルを割り込んだといっても、直ちに対外債務の償還などに支障を来たす水準にはない。過去の遺産もあり、依然として世界有数の規模である。政府債務残高も、対国内総生産(GDP)比で15%程度に抑制されており、他先進国との比較では寧ろ健全な状態とも言える。ただ、ロシア経済が安全網を徐々に失っているのは間違いなく、同国経済に対する信認低下を後押しするデータと評価できよう。



■金準備の売却がギブアップ宣言か?

こうした中、ロシア中央銀行の金準備資産売却の選択肢も噂されている。2013年には欧州債務危機の余波を受けたキプロスが、支援受け入れの条件として保有する金準備売却圧力に晒されたが、ロシアについても危機緩和のカードとして、金準備売却に踏み切る可能性が話題になっている。ただロシアは当面の危機緩和よりも、外貨準備において(ウクライナ情勢を巡って敵対する)ドルやユーロの保有比率を引き下げる長期的な視点を重視しており、依然として金準備保有量を拡大する方針を維持していることが確認できる。無国籍通貨である金準備が高く評価されている模様だ。

米経済の回復が進む中、ドルインデックスが急騰するなど、ドルに対する信認問題は一息ついた形になっている。しかし、ロシアは一連の金融・経済危機でドルやユーロに依存する外貨準備体制に強い危機感を有しており、危機的な経済環境においても金準備の積み増しを重視し、実際に継続している。

裏返せば、ロシア中央銀行が金準備資産さえも売却に踏み切らざるを得ない状況に陥れば、ロシア経済は本当に深刻な状況に陥ったと言えるだろう。1月27日には米格付け会社S&Pがロシアの外貨建て長期債の格付けを投機的な水準に引き下げたことで、更にルーブル安が進行している。外貨準備減少の中でも膨張を続けるロシア中央銀行の金準備資産の行方にも注目したい。

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マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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