北陸新幹線開業で、観光客が急増している金沢市。代表的な産業として知られる金箔(きんぱく)の店にも多くの人が訪れている。伝統技術を守りながら金箔の新しい用途、商品開発に取り組んできた業界のパイオニア、「箔座(はくざ)」の高岡社長に新幹線開業を踏まえ、自社の未来像と業界の将来を直撃した。 (清丸惠三郎)
──北陸新幹線開業で、金沢市は観光客が急増しています
「入込客が前年度比2倍になったとか、兼六園への入園者も1・5倍になったと報じられています。私ども箔座の、ひがし茶屋街にある『茶屋美人』をはじめ各店も来店客は増え、売り上げもぼつぼつですが、着実に増えています」
──ぼつぼつですか
「人が増えていますから、当然売り上げも増えていますが、かなりとまでは言えないですね。それに今後どうなるか分かりませんしね」
──ただ金箔への関心は高まっている
「私どもは1990年ごろから、金箔の用途開発をしてきました。今では生活工芸品、日常雑貨、アクセサリーから化粧品、食品まで金箔が使われるようになり、建築関係でも、昨年末には東京・銀座で『箔座 金箔ルーム』というコンセプトの部屋を備えたホテルがオープンしました」
「金箔には伝統箔と現代箔がありますが、世界中で伝統箔は金沢でしか作れないもの。優れた箔製品を見て触れてもらうことで、美しさや特性などを知り、多くの人に使っていただければと思っています」
──伝統箔は、国宝や重要文化財等の修復にも使われている
「最近では、世界遺産にも指定された日光東照宮の陽明門の修復に際して17万枚の伝統箔の注文をいただき、これを金沢の箔商工業協同組合加入の5、6社で納めています。組合加入社は15、16社あり、全社に仕事を回せればいいのですが、伝統箔の職人(技能者)を抱え、在庫を持ってやっていけるところは数えるほどしかなく、そうもいきません」
──伝統工芸の街、金沢でも後継者の絶えた工芸があると聞きます
「用途の中核だった仏壇仏具の売り上げが激減し、現状、伝統箔の職人は21人しかいない。平均年齢は約69歳で、後継者はわずかに3人。昭和の初めには3000人いたそうですから、極めて厳しい状況です」
「ただ昨年、文化庁から『選定保存技術』に指定され、後継者育成のための補助金が出ることになったので、力づけられた思いがしています。とはいえ、日常的に仕事がなければ職人の育成も技術の伝承もできませんから、われわれとしてはできる限りの努力を傾けて、純金プラチナ箔のような新技術を開発する一方、用途開発、商品開発を進めているわけです」