ゴールドコラム & 特集

コモディティ・フェスティバル2015レポート:インドとゴールド

9月26日(土)に行われたコモディティ・フェスティバル2015のゴールドは「インド」特集でした。ということで、今日はそのインドの話を。お話をしてくれたのはスニル・クルカルニさん。彼は日本でIT企業を経営する人で、ゴールドの専門家ではありませんが、そこはインド人、ゴールドに対しては非常に親近感を持っており、インドの人々にとってのゴールドとは何かを語ってくれました。それが非常に興味深い内容であったので、紹介したいと思います。彼はまた「Swagat」(ようこそ、という意味らしいです。)というインド料理のお店も経営しており、これが非常に美味しいのです。それは最後に番外編で。笑。



さてゴールドです。上のチャートを見ても分かるように、インドは中国とともに世界の1?2位を争う規模のゴールドの買い手です。これはおそらく皆さんも知っている話。しかし僕がもっとも「たまげた」話は、(びっくりを通り越して本当にたまげた)インドの人々が持つゴールドの総量はなんと2万トン以上ということ。2万トンというと、世界最大のゴールド保有高である米FRBが約8100トンですから、優にその2倍以上のゴールドがインドの人民の中に保有されているわけです。これは驚異的な数字です。そのうち寺社が持っているのが2500トンといいますから、インドのお寺だけで、イタリアやフランスの中央銀行並みのゴールドを持っていることになります。



インドと中国の大きな違いはそのゴールドの供給面にあります。中国は現在世界でダントツトップの産金国であり、その需要もさることながら、自国でゴールドを産出しており、それでも足りない分を輸入しています。一方のインドは下のグラフを見ても分かるように、ゴールドの生産はほとんどありません。つまりインドはそのゴールド需要のほぼ100%を輸入に頼っているということです。これはインド政府にとっては頭の痛い問題を作り出しています。現在インドの輸入製品の1位は原油、それについで電子電化製品、そして三番目がゴールドです。価値にして、インドの輸入全体の約12%をゴールドが占めています。インドという国は基本的に目立った輸出産業がなく、貿易赤字が膨らみ、それが経常収支の大幅な悪化につながりました。それを防ぐべく昨年インドのモディ政権は、ゴールドの輸入を制限するルールを設けて、事実上のゴールド輸入をほぼ禁止しました。しかし上に政策あれば下に対策ありで、ゴールドの需要は当然なくなるわけではなく、正式な輸入が難しくなったところでも、パキスタンやネパールからの陸路、ドバイからの船便で密輸されたゴールドはインド国内へと入ってきました。供給不足のためにインド国内では高いプレミアム(一時20ドル以上ついたという)で取引されていたので、より密輸が横行するようになりました。



インド政府はその愚を悟ったのでしょう。この輸入規制を昨年11月に撤廃しました。そして今度は、輸入の規制よりも、国内にあるこの2万トン以上ものゴールドの「マネタイズ」、つまり「金融資本化」に取り組んでいます。インド人女性・男性が身につけているゴールドを、市場に供出させて、それを金融市場で「金融資産」として利用しようというのです。その代表がゴールドデポジットプラン。銀行に30g以上のゴールド(宝飾でもかまわない)を預けてもらい、それに金利を支払うというもの。預かったゴールドを銀行は宝飾業者に貸し出して、運用する。国内にすでに存在して眠っているゴールドを利用することによって、金融市場の流動性を増し、また新たなゴールドを輸入する必要もなくなるというまさに一石二鳥な政策です。これがうまく行けばすばらしい政策なのですが、残念ながらうまく行くとは思えません。まず第一に、ゴールドを保有しているインド人の大部分は農村に住む農民で、比較的貧しく、銀行口座など持っておらず、銀行や国家よりも「ゴールド」を唯一信頼しているということ。そんな人々がわざわざゴールドを銀行に預けるとは思えません。そして、金利を払うといっても、ルピーの金利が4-5%もある今、ゴールドを預けるのに魅力的な金利が払えるのかどうか。ゴールドの金利はほぼ0%です。狙いはいいのですが、この政策はやはり最初から無理があると思われます。それはゴールドがもはやインドの人々の「家族」のような存在であり、離れることができないものだからです。以下スニルさんのプレゼンを見てもらえれば、それが実感できると思います。




最後に番外編。インド料理「Swagat」ぜひお試しを。真ん中上段の写真、「ゴビ65」。これはタンドリーチキンではなく、ベジタリアンのメニューです。ぜひ何なのかトライして発見してください。笑。



岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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