ドル・金を買いたがる財務省・日銀OB
「ドルや金を買いたいのだが」。筆者のところに相談にくる知り合いのなかで、外貨建て投資に強い興味を示す一団が、財務省・日銀のOBたちだ。退官した同期や先輩たちゆえ、会話にも遠慮がない。
「自分は日本国の台所の実態をこの目で40年間見てきた」「量的緩和でマネーが大量に供給される現場で働いてきた」
「通貨の番人」役を長く勤めてきた人物たちが、退官した翌日から個人投資家となり、退職金の運用を考え始める。そのときに、番人として守ってきたはずの円を持ちたがらない傾向がある。
そもそも、ドルや「代替通貨」の金を買うという投資行動は、円に対する不信任投票だ。
彼らのドル・金選好の根底には、膨張した公的債務・通貨供給量を「正常化」する出口の過程でインフレが不可避との認識がある。円という通貨の価値が希薄化して、長期的には円安とみる相場観だ。この点については「少子高齢化で移民も拒む国の通貨は長期的に下落するから円安」と見る著名投資家ジム・ロジャーズ氏の考えと共通点がある。
「膨張した国の借金は、国民がまともに働いて返済できる規模ではない。量的緩和の出口戦略は未知の領域だ。ここは、資産防衛しかあるまい」。よく聞く議論だが、国の財政・金融政策の中核にいた人たちから、本音ベースで語られると、背筋がひんやりするような説得力を感じてしまう。
現役時代は、コンプライアンス(法令順守)で個人投資はできなかったので、生まれて初めて「証券口座」を開設する事例も少なくない。郊外の支店で、自分の娘より若い女性販売員に1時間、リスク開示の説明を神妙に受けた、と苦笑して話す人もいた。「一人では不安なので妻同伴で赴いた」との告白もあった。仕事上、兆円単位の資金移動には慣れていても、いざ虎の子の個人資産を動かすとなると戸惑うものなのだ。
それにしても、考えさせられる現象ではある。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経ヴェリタス「逸's OK!」と日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層心理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org
関連企業・業界