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コストカットがようやく功を奏し、ゴールド鉱山会社の利益は大きく上昇

前回、2015年のゴールドの生産コストに関してMetals Focusの分析を紹介しましたが、そのupdateです。

今年の年初ゴールドはほぼ4年半下がり続け、1050ドルというレベルでした。これは2011年のピークであった1921ドルからほぼ45%下がったということになります。市場参加者のマーケットに対する考え方も悲観的なものが多く、LBMAでの2016年のゴールド価格予想は1103ドル、シルバーに至っては14.74ドルというものでした。

Metals FocusではHUI Indexという指数を紹介しています。これはAmerican Exchangeに上場された主要なゴールド鉱山会社株価の加重平均したものですが、この指数もやはり2011年にその最高値635をつけていますが、今年年初は100程度で、ピークからは83%の下落でした。しかし、この7ヶ月で投資家の心理は劇的に変化し、ゴールドは約300ドル、27%の上昇、そしてHUI Indexはなんと140%の上昇となっています。


(HUI Index過去10年の動き)


なぜゴールド価格の上昇よりも鉱山株(HUI Index)のほうが圧倒的に上昇しているのでしょうか。それは過去数年間の鉱山会社の基礎利益を見てみればよく分かります。2010年のゴールド鉱山会社のトータルキャッシュコストベースの生産コストは1オンス当たり542ドルでした。その年のゴールドの平均価格は1227ドルであり、鉱山会社の基礎利益は685ドルにもなります。しかし、これはあまりに単純なアプローチであり、広い意味でのゴールド生産のコストを正しく反映していません。資金コストや会社のコスト、そしてプロジェクトコストなどが含まれていませんでした。この結果2013年にはオールインサステイニングコスト(All in sustaining cost: AISC)(事業継続に必要な全てのコストを含んだもの)という基準がWorld Gold Council (WGC)により、ゴールド生産のコストの透明性を確実にするために導入されました。


この新しいAISCは鉱山業界で幅広く受け入れられており、2012年まで遡及して計算されています。業界全体として見ると、このコストは2013年の第2四半期にピークを迎え、1151ドルとなりました。その後は下落傾向となり、2016年の第1四半期には最も低い842ドルとなりました。このうち633ドルはトータルキャッシュコストであり、209ドルが事業継続のためのコスト(サステイニングコスト)となります。興味深いのはこの事業継続のためのコストがピーク時より164ドル、約44%も減少し、トータルキャッシュコストは19%(146ドル)の減少にとどまっていることです。

現在も進められている鉱山会社によるコストカットの努力と強い米ドルによって、ゴールド価格の下落を相殺しています。2013年第3四半期の平均価格1417ドルから、2015年第4四半期の1104ドルまで下落したにもかかわらず、AISCベースでのオンスあたりの利益を250ドルから315ドルくらいで維持していました。しかしながら、投資家の心理は、ゴールド鉱山会社に対しては圧倒的な弱気が続き、HUI Indexは2013年第2四半期の273から2015年第3四半期の118まで大きく下げました。

2016年を見てみると、ゴールド価格は1050ドルから始まりました。この時、鉱山会社の平均利益は1オンスあたり220ドルという最低水準となり、25%の鉱山会社がAISCベースでは採算割れということになっていました。しかし、これはほんの短い間で終わり、ゴールド価格が上昇するにしたがって、利益も急速に改善、ゴールドが1350ドルでは利益は150%増加して500ドルを超えました。これはゴールドの平均価格が1669ドルだった2012年以来の高いレベルとなっています。


(ゴールド価格、AISCベースの利益、HUI Index:すべて指数ベース)


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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