「都市鉱山」から金メダル試作 北九州・アステック入江が協力

アステック入江は、廃棄家電の基板から輝く金メダルを作り出した
アステック入江は、廃棄家電の基板から輝く金メダルを作り出した

 2020年東京五輪・パラリンピックのメダルに、パソコンなど使用済み小型家電から取り出した貴金属の活用を目指す取り組みが広がっている。北九州市八幡東区の鉄鋼業「アステック入江」は、金メダルの試作に協力した。長い歴史で培った同社のリサイクル技術は、業界でも高く評価されており、社員は「東京五輪で日本のエコ技術を発信したい」と意気込んでいる。(奥原慎平)

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 アステック入江は明治43(1910)年、八幡東地区で創業した。官営八幡製鉄所の協力会社として製鉄事業を手がける。

 平成26年8月、同社は「都市鉱山」リサイクル事業を立ち上げた。

 使用済みパソコンやテレビなどの基板に含まれる有用な貴金属は、鉱山に見立てて都市鉱山と呼ばれる。アステック入江はこうした基板から金などを取り出している。

 基板の銅線には、腐食を防ぐため金メッキ加工が施されている。メッキの厚さは0・1マイクロメートル以下でしかない。

 同社は、基板から金メッキ部分を銅線とともに引きはがす特殊技術を持つ。それを塩化鉄の液体に入れると、銅など金以外の金属は液体に溶けこみ、濾過(ろか)で純度90%程度の金を採取することができる。この液体を使って金を抽出する事業者は、国内ではアステック入江だけだという。

 この技術を使い、今年3月、9個の金メダルを試作した。

 金箔(きんぱく)が付着した濾過紙から、東京の製錬会社が金を取り、さらに純度を高め、円形の銀に貼り付けて金メダルを作成した。メダル表面の金箔は純度99・99%だった。

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 東京五輪で都市鉱山を活用してメダルを作ろうというアイデアは昨年5月、岩手県一関市、青森県八戸市、秋田県大館市の3市が提唱した。

 3市内には、25年4月に施行された小型家電リサイクル法の認定事業者がいることから、リサイクル活動の促進PRにつなげようと狙った。

 リサイクル事業者らでつくる一般社団法人「エコマテリアル・フォーラム」(茨城県つくば市)が、技術的な課題について調査協力を申し出た。

 同フォーラムの試算によると、ロンドン五輪の金メダル1個に必要な金属量は金6グラム、銀379グラム、銅25グラムだった。

 受賞者全員のメダル製造には、合計で9・6キログラムの金が必要となる。都市鉱山でまかなうとすれば、パソコンだけで7万4千台。従来型携帯電話32万台分の計算となる。

 東北の3市や同フォーラムは、小型家電の回収の呼びかけに協力する。技術を持つアステック入江と連携し、メダル製造の実現を目指す。

 2010年のバンクーバー冬季五輪以降、リサイクルした素材をメダルに活用した五輪はある。ただ、使用量は少量で、リサイクル素材を100%活用した事例はない。今夏のリオデジャネイロ五輪でも銀・銅メダルで使ったリサイクル金属は30%にとどまる。

 大会組織委員会は今年7月、東京五輪の行動指針「アクション&レガシープラン」を公表し、回収金属によるメダル製造の検討を盛り込んだ。都市鉱山を100%活用したメダル作成が実現すれば、五輪史上初めての試みだ。日本のリサイクル技術が、大舞台で輝くことになる。

 アステック入江の越智清常務は「北九州で高めたエコ技術を、東京五輪を舞台に、世界に向けて発信したい」と語った。

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