眠るスマホから五輪メダル 産学官で促進組織
家電回収大手のリネットジャパン(愛知県大府市)と大府市、至学館大学(同)は21日、廃棄された小型家電から2020年の東京五輪・パラリンピックのメダルを作る促進組織を発足したと発表した。家庭で眠るスマートフォンやパソコンには貴金属が豊富に含まれる。五輪で世界初となる完全リサイクルメダルの実現に向け、全国の自治体や企業、スポーツ選手に協力を働きかける。
3者が発起人として「都市鉱山メダル連携促進委員会」を発足した。家庭から回収した小型廃家電から金や銀、銅を取り出して五輪メダルを作ることを目指す。
女子レスリングの名門校である至学館大学で開いた記者会見には、リオデジャネイロ五輪メダリストである吉田沙保里、登坂絵莉、川井梨紗子、土性沙羅の各選手も出席した。吉田選手は「みんなの応援が詰まっていると思うと、(選手は)より頑張れる」と、国民が提供した廃家電を使ったメダルの実現を訴えた。
小型廃家電は小型家電リサイクル法に基づき、自治体が無料回収している。だが国民周知が不十分なことから、回収率は現在8%弱にとどまる。
国内で出回る家電などに含まれる金や銀の含有量は世界の埋蔵量の約2割に相当するなど、日本は世界有数の都市鉱山国。眠れる資源を覚ます起爆剤として、五輪メダルでの利用を呼びかけた。「『もったいない』をキーワードにしたい」と岡村秀人大府市長は言う。
リネットジャパンは佐川急便と組んで横浜、京都、大府市など全国約90自治体で宅配回収している。大府市で市民マラソン用に廃家電から金メダル作るほか、全国の自治体を通じた啓発活動を考えている。
五輪メダルに必要な貴金属量は金が9.6キログラム、銀は1210キログラム、銅は700キログラムと想定。金の場合、携帯電話32万台かパソコン5万台で必要量は確保できるという。
メダルに必要な貴金属の調達コストは「1億円も満たないと思う」(リネットジャパンの黒田武志社長)。東京五輪・パラリンピック組織委員会が決断すれば、実現は難しくない。組織委員会にリサイクルメダル採用を働きかけていく。
リオ五輪では銀と銅は3割がリサイクル品と言われるが、全量リサイクルは五輪の歴史上ない。これまでメダルに必要な貴金属は金属会社からの寄付で賄うなど、過程が見えないブラックボックスとされてきた。
五輪予算の適正化と透明化を目的に、東京都は小池百合子知事主導の下で五輪施設の見直しを進めている。もったいない精神と国民参加というリサイクルメダル運動は、現在の都と軌を一にしている。(榊原健)