ゴールドコラム & 特集

2017年のゴールドマーケット:WGCの見方

各方面から今年2017年のゴールドマーケットの見方が発表されています。今週はWGC (World Gold Council)の発表した今年のゴールドマーケットの展望を見てみましょう。WGCの組織としての性格上、やはりゴールドに対して「明るい未来」の予想になってしまうのは当然なのですが、それを割り引いたとしても、基本的には納得のできる見方だと思います。もちろんあくまで「予想」ですので、不確定な要素に対する期待が少し大きすぎるかもしれないかなとは思いますが。

「2017年のゴールドマーケットの主要な流れ」

2016年のゴールドはドル建てでほぼ10%の上昇となり、ETFでの記録的な資金流入とあいまって、米大統領選挙の後の下落を加味してもなお、最も上昇した商品の一つとなりました。そして12月半ばにFRBが金利を上げた後も既に5%上昇しています。

2017年はどうなるのでしょうか?

WGCは2017年のゴールドの需要を支える6つの重要な経済のトレンドをあげています。

1 増大した政治的+地政学的リスク

欧州ではオランダ、フランス、ドイツで主要な選挙があり、英国はEU離脱の本格交渉に入ります。EU離脱がハードランディングになりそうなニュースが出るたびに英ポンドは大きく売られる状況。そして米国では、トランプ新政権の経済政策への期待がありますが、同時に先行きに対する不安もあり、選挙戦以来買われてきたドルも、逆に不安がもたげてきたことにより頭を打ち、保護主義的な貿易交渉により人々の信頼は揺らぎ、それが地政学的に緊張に繋がっていきます。流動性と信頼があるゴールドには避難的な資金が流入するでしょう。

2 通貨安

通貨政策は米国とその他の国の間で大きな溝ができるでしょう。FRBは金利を上げることが期待されますが、その他の国々はほぼそういったポジションにありません。特に欧州は過去5年間続けてきたように金融緩和を続けていかざるを得ない状況です。そうなるとやはり通貨は安くなることが必然であり、輪転機は廻り続けるということになるのです。当然その価値が下がっていく通貨から、内在的価値があるゴールドへの資金移動があるでしょう。ゴールドは年間2%しかその流通量が増えませんが(地上在庫に対する新産金の割合)、通貨の印刷には限界がありません。


(Chart1:主要通貨は全てゴールドに対してその価値を下げている)


3 膨らむインフレ期待

米国の名目金利は上昇すると期待されている一方、ほとんどの経済学者はインフレ率も上昇すると予想しています。インフレ率の上昇は次の三つの理由でゴールドの価格を支えます。まず一つ目には歴史的にゴールドはインフレに対する保険と見なされてきたこと。二つ目にはインフレ率の上昇は実質金利を押し下げ、ゴールドの魅力を相対的に増すこと。三つ目はインフレは長期的投資家にとって債券のような金利商品をより魅力ないものにしてしまうということ。世界中で何年にもわたってばら撒かれた金融緩和資金は、価格のインフレを押し上げ、投資家を驚かすことになる可能性があります。

4 上がり過ぎた株価

2016年後半、株式は大きく値を上げました。いくつかの市場にとっては何年もに渡った停滞状況から抜け出したに過ぎませんが、米国の株式市場は歴史的高値をつけました。異常とも言える低金利の中、投資家はより高いリターンを求めてそのリスク許容度を上げたために株価は煽られていると言ってもいいでしょう。これまでは膨らんだ株式のポジションのヘッジに米国債にも買いを入れていましたが、金利の上昇と共に債券は好ましい選択肢ではなくなってきました。その間にも株式市場の「高値修正」の可能性が高まりつつあります。世界中の金融市場のより深い繋がりは、より大きな規模での「システムリスク」がより頻繁に起こる危険にさらされているのです。このような環境下において、ポートフォリオの分散化とテールリスクヘッジの対象としてのゴールドの役割は非常に重要です。

5 アジアの長期的成長

マクロ経済的視点からはアジアの経済成長はこれからも続き、それはゴールドの需要を喚起すると思われます。アジアの国々では、その富の増加と密接な関係があります。経済的に裕福になればなるほどゴールドの需要が増加するという相関関係が見られるのです。中国とインドをあわせたゴールド需要の世界でのシェアは、1990年代の25%から2016年には50%まで増加しました。ベトナムやタイ、韓国なども活気のある市場が存在しています。中国では宝飾品のマーケットが消費者の好みの変化に苦戦していますが、地金やコインへの投資マーケットは順調に育っており、ETFは2016年は30.3トンの残高増で、前年と比べると6倍の伸びになっています。Shanghai Gold Exchangeの出来高も増加傾向にあります。投資商品の新規開拓によって中国のマーケットはまだまだ伸びると考えます。

インドでは政府による高額紙幣の廃止により、86%もの現金が市場から消えました。これによる流動性の欠乏は一時的にはゴールドマーケットにとってはマイナス要因ですが、長期的にはブラック経済を駆逐し、より透明化、そしてオープンな経済となることによってインド経済の成長に繋がり、それがひいてはゴールドの新たな需要に繋がると考えます。


(Chart 2:日本を除く中国とアジアは2017年の世界の成長の60%を占めるだろう)


6 新しいマーケットのオープン

中国では近年純金積み立てやSGEの現物取引が大きく成長し、日本では年金がゴールドの保有を増やしています。世界のいろいろなマーケットで新たな動きが起こっていますが、昨年後半に最も目立ったのは、WGCとイスラム金融会計機関との協力で、イスラム金融(シャリア法)におけるゴールドのポジションがはっきりと定義されたことです。これにより何百万人ものイスラム教徒がゴールドへ投資することが可能になりました。その上、近年では多くの国々が、イスラム金融の拡大と共に資産の多様化と経済成長の対象としてイスラム経済圏を見るようになってきています。この状況はマレーシア、アラブ首長国連邦そしてサウジアラビアのようなイスラム金融先進国から、インドネシアやパキスタンのようにイスラム金融を今後国の経済の中心に置こうとしている国まで、ゴールドの需要を潜在的に喚起するものです。

イスラム金融界の規模は2020年までに6.5兆ドルへと成長すると予想されています。その1%がゴールドに投資されるとすれば650億ドル、つまり約1700トンものゴールドの新しい需要が生まれることになります。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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