ゴールドコラム & 特集

メタル間比価の現状

今週は貴金属間の比価、ゴールドとシルバー、そしてプラチナとパラジウム、ゴールドとプラチナについて見てみます。

「金銀比価」

金銀比価は英語で言うとGold/Silver Ratio(ゴールドとシルバーの割合)、であり、まさに言葉通りゴールドの価格をシルバーの価格で割ったものです。現在はちょうど70対1であり、シルバーはゴールドの70分の1、ゴールドはシルバーの70倍の価値であるということです。もちろんゴールドとシルバーがこうでなければいけないという理論値というものはありません。2015年の鉱山生産量は、ゴールドが3158トン、シルバーが27,579トン(いずれもGFMS調べ)であり、これだけを比較するとゴールドの希少性はシルバーの約8.7倍に過ぎません。それが実際は70倍もその価格は違っています。


(金銀比価過去50年の動き)


過去50年の金銀比価の動きは、四半期平均と取ると57倍。最高値は99倍、最低値は14倍となっています。あまりに大きな変動でそこには何ら法則性は見出せません。過去1年では、平均は71、最大値は83、最小値は64です。現在のレベルはまさに過去5年で見ればちょうど平均値にあると言えます。


(金銀比価過去5年の動き)


このゴールドとの関係は客観的見てやはり「シルバーが割安」と考えられるでしょう。もっと昔に遡ると幕末の日本では金銀比価は5対1で(そのため大量のゴールドが海外に流出することになりました。同時期の西欧ではその比率は16対1程度だったのですから)。それが今は70対1というのは、その希少性を問うまでもなく、やはりシルバーは歴史的に見ても割安なレベルにあると言えるかもしれません。この金銀比価は、大きな戦争や経済危機、市場の混乱が生じた時に大きくなりやすいです。直近では2016年の年初から、上海株の暴落に端を発し、新興国市場にその不安が広がった時は、80の大台を超えて2月から4月までほぼそのレベルは続きました。その後の株価の回復と共に、比価も下落しました。この裏で起こっていたことはつまり、不安心理によるゴールド買いとそれが終わることによるゴールド売りでした。シルバーはどちらかというと直接の当事者ではなく、現状ではゴールドが買われるか売られるかによって金銀比価が決まっていると言えるでしょう。特に今年はトランプ政権の行く末、そして欧州の国政選挙とそれに起因する投資家の不安が、ゴールドを動かし、それが金銀比価を動かしていくと考えると、歴史的に見て割安と思える70:1の金銀比価も、まだ上ぶれ(80:1とかのさらにシルバーが割安になる場面)がありえるでしょう。ゴールドが中心のマーケットは続きそうです。


(過去10年、ゴールドとシルバーそれぞれの値動き)


「プラチナ・パラジウム比価」

プラチナとパラジウムは同じプラチナ系金属(Platinum Group Metals)です。当然その特性は非常に似通っています。その中でもプラチナとパラジウムはまさに兄弟のようなメタルであり、産出量も年間200トン前後と似たり寄ったりな存在です。しかし歴史的に常にプラチナの方がパラジウムよりも高い関係が続いていました。その理由として考えられるのは以下。

◎プラチナは宝飾品としての需要が大きく、一般にパラジウムより知名度があり、イメージ的にも高級である。
◎プラチナの生産は南アおよびその周辺が8割を占め、パラジウムの生産はロシアが4割、南アが4割を占める。
◎プラチナの方がパラジウムよりも圧倒的に重たい。(プラチナはもっとも重たい金属の一つ)


(プラチナ・パラジウム比価)


しかし、近年はプラチナとパラジウムの値差がだんだん縮小しており、2009年には一時プラチナはパラジウムの5.47倍まで差が開いたのに対して、現在はわずか1.22倍となっています。この価格差縮小の要因は以下の通り。

◎プラチナの用途の4割は主にディーゼル車の触媒に対して、パラジウムの7割の用途はガソリン車の触媒。世界で売れているのは圧倒的にガソリン車。
◎プラチナの需要の3割が宝飾需要であるが、その8割を占める中国の需要不振。
◎9年連続のパラジウム供給不足状態。
◎ロシアの国家備蓄の枯渇。
◎共にガソリン車の触媒に使われるロジウムの急騰。

この状況はこれからも続きます。早ければ今年中にもパラジウムとプラチナの価格はpar(等価)になるのではないかと考えます。

「ゴールド・プラチナスプレッド」

プラチナとゴールドの逆転劇は2015年の年初からもはや2年以上続いており、過去最長のものになっています。このところそのスプレッドは縮小ではなくどちらかといえば広がる傾向にあります。

◎トランプ政権の今後と欧州の政治日程から来る投資家の不安がゴールドの買いを誘発しやすい状況。
◎投資家の不安はsafe haven としてのゴールドに向き、プラチナには向かってこない。
◎ディーゼル車の主戦場は欧州であり、ガソリン車ほどの盛り上がりは見られない。
◎宝飾需要の8割を占める中国での需要の低迷。


(ゴールド- プラチナスプレッド)


以上の状況から、ゴールドとプラチナの逆転劇はまだまだ続く可能性が高いです。ファンダメンタルズが相場の中心になると鉱山生産190トンのプラチナが3100トンのゴールドを上回り、逆転劇も解消されると思いますが、それには長い時間かかると思います。まだしばらくはゴールド有利です。

Tocomのプラチナスポットの上場が3月21日にありました。投資家の最もわかりやすい戦略としては、歴史的に割安なプラチナを買って、ゴールドを売るというスプレッド取引ですが、短期的にはこのスプレッド、上記のように広がる可能性があります。短期的にそして積極的に行くなら、逆にプラチナ売りゴールド買いの方が今年はチャンスが大きいでしょう。実際、上場当日より最早100円近くそのスプレッドは逆に広がっています。長期的にこれが戻るとしても、まだプラチナ買い・ゴールド売りにはより良い機会があると思います。しばらくは待ちでいいのではないでしょうか。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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