■工藤重典、師ランパルと同じ米ヘインズ社製
日本を代表するフルート奏者の一人、工藤重典が、1960年に作られた米国ヘインズ社の14金の楽器で、モーツァルトのフルート・カルテット全曲を初めて演奏する。
金製のフルートは、現在の大量生産の楽器にはない多彩な音色が魅力だ。工藤の師で仏フルート奏者、ジャン=ピエール・ランパル(1922~2000年)も1959年製のものを所有していた。
「私のフルートはランパル先生のものと1年違い。メトロポリタン歌劇場オーケストラの首席奏者だったハロルド・ベネットが使っていたもので、奥さまが大切に保管していた。巡り合わせです」と工藤は話す。
今でこそ、金はおろか、プラチナやさまざまな合金、クリスタルの楽器まで作られているが、工藤がパリ国立高等音楽院に留学した当時は銀か真鍮(しんちゅう)ばかり。入手したフルートはベネットが注文して作らせたもので、効率重視で作られた現代の楽器にはない良さがあるのだという。
「先生のものとデザインはまったく同じです。ヘインズ社に行って見てもらったのですが、職人たちは昔の仕事の素晴らしさに驚いていました。演奏すると、音色の変化がすごい。この楽器を吹くことで、ランパル先生の音の出し方など分かったこともあります」