コラム:米中貿易戦争、金相場の「勝ち組」説は正解か

コラム:米中貿易戦争、金相場の「勝ち組」説は正解か
 5月16日、鉱業関連の会合で最も頻繁に出てくる質問の1つは、投資対象としてあなたが最も推奨するのはどの金属で、強気になる理由は何かというものだ。2016年撮影(2019年 ロイター/Leonhard Foeger)
Clyde Russell
[シンガポール 16日 ロイター] - 鉱業関連の会合で最も頻繁に出てくる質問の1つは、投資対象としてあなたが最も推奨するのはどの金属で、強気になる理由は何かというものだ。今年これまでを見れば、金が明白な勝者になっている。
金は長らく鉱業界で人気を博してきたが、足元でほとんど全面的なまでの支持を得ている背景には、2つの動きがあるのだろう。
1つは金の大幅な新規供給見通しが限られていること。もう1つは、トランプ米政権が中国との貿易摩擦を激化させ、主要産油国であるイランやベネズエラとの対立を深めていることで、世界経済が大荒れの局面に向かっているとの観測だ。
シンガポールで今週開かれたイベント「121マイニング・インベストメント」においては、4人のパネリストのうち3人が金を好ましい投資先に挙げ、残りの1人だけがプラチナ、銀といった別の貴金属を推奨した(ここで打ち明けると、私はパネリストの1人で向こう1年で最も値動きが堅調になりそうな金属として金を選んだが、そうした予想にヘッジもかけ、銅への強気姿勢も示しておいた)。
121マイニング・インベストメントにおける議論は、今年に入って香港やケープタウン、シンガポールで開催された同じようなイベントと共通した内容だった。
ただ金強気派にとっての問題は、価格の動きがそれほど説得力を持っていない点にある。
金現物価格は15日の終値がオンス当たり1296.41ドルで、昨年末を1%ほどしか上回っていない。
第1・四半期中には2月20日に一時1346.73ドルに達したが、そうした値上がり分はほとんど帳消しになっている。
金の主要消費国であるインドや中国、あるいは中央銀行などの需要が強いにもかかわらず、価格は伸び悩んでいるのだ。
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のデータでは、インドの宝飾品用の金需要は第1・四半期が125.4トンで、前年同期比5%増加した。
中国の金需要は184.1トンと前年同期を2%下回ったとはいえ、前期比では3期連続増加している。
また中国の金需要は第1・四半期末にかけて加速したといえるかもしれない。本土への主な流入経路である香港の金輸入は3月に差し引きで前月比9.8%も増えた。
米中貿易摩擦が続けば、中国の金需要は今後増える可能性もある。個人投資家が人民元下落を警戒して金を買ってヘッジしようとする公算が大きいからだ。
さらにインドでは、婚礼の吉日が増えることから、金需要が4─6月に増加を続けてもおかしくない。
<ETFの買い見えず>
第1・四半期の中銀による金購入量は前年同期比68%増の145.5トンだった。WGCによると、4四半期移動平均の中銀の需要は715.7トンと過去最高に達した。
しかし持続的な金上昇に妥当性を持たせる上で欠けているのが、上場投資信託(ETF)を通じた投資家の金買いだ。
第1・四半期を通じてはETFの金購入は前年同期から68%増えて40.3トンになったものの、最近数週間で買いの流れは弱まっている。
最大の金ETFであるSPDRゴールド・トラストは1月下旬以降は相当な資産の減少が続いている。
SPDRの14日時点の保有高は2368万トンで、年初来のピークから10.5%、昨年末から6.5%目減りした。
こうしたETFの資産減少からは、世界経済がさまざまな試練に見舞われながらも全世界的な景気減速や景気後退に陥るかどうか多くの投資家が確信を持てないでいることがうかがえる。
ロンドンの銅取引の価格も金にとって何事かを示唆してくれる。銅価格は4月17日に年初来高値を付けて以来軟化傾向にあるが、今年初めと比べると小幅高の水準を保っている。
銅は世界経済の成長、とりわけ製造業と建設業の活動の代理変数とみなされることが多く、最近数週間は悲観論の高まりをにじませつつある。
ただ銅と金の値動きを全体としてとらえると、投資家は世界経済にはっきりと強気、もしくは弱気になれない状況だと分かる。
そこで最良のヘッジ方法は、銅と金の良質な鉱山資源を持っている企業に投資することになるだろう。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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