※1988年4月~1990年4月の金価格。国内金価格は田中貴金属の1gあたりの月間平均価格で税抜き、海外金価格はドル建ての月間平均価格、1トロイオンスあたり
※1988年4月~1990年4月の金価格。国内金価格は田中貴金属の1gあたりの月間平均価格で税抜き、海外金価格はドル建ての月間平均価格、1トロイオンスあたり
※2013年4月~2015年4月の金価格。国内金価格は田中貴金属の1gあたりの月間平均価格で税抜き、海外金価格はドル建ての月間平均価格、1トロイオンスあたり
※2013年4月~2015年4月の金価格。国内金価格は田中貴金属の1gあたりの月間平均価格で税抜き、海外金価格はドル建ての月間平均価格、1トロイオンスあたり
※1996年4月~1998年4月の金価格。国内金価格は田中貴金属の1gあたりの月間平均価格で税抜き、海外金価格はドル建ての月間平均価格、1トロイオンスあたり
※1996年4月~1998年4月の金価格。国内金価格は田中貴金属の1gあたりの月間平均価格で税抜き、海外金価格はドル建ての月間平均価格、1トロイオンスあたり
消費税導入前に定期券や前売り指定券を買い求める客。駆け込み需要が起こった(写真/朝日新聞社)
消費税導入前に定期券や前売り指定券を買い求める客。駆け込み需要が起こった(写真/朝日新聞社)
総額表示義務の緩和で店頭では税抜きでの価格表示が一般的に。299円や1999円など割安感を強調する税抜き価格設定が当たり前に(写真/朝日新聞社)
総額表示義務の緩和で店頭では税抜きでの価格表示が一般的に。299円や1999円など割安感を強調する税抜き価格設定が当たり前に(写真/朝日新聞社)
1997年4月の税率5%への引き上げ直後は、韓国やタイなどで通貨危機が発生したこともあり、大不況に突入。消費不振に対抗してスーパーなどでは消費税還元セールが相次いだ(写真/朝日新聞社)
1997年4月の税率5%への引き上げ直後は、韓国やタイなどで通貨危機が発生したこともあり、大不況に突入。消費不振に対抗してスーパーなどでは消費税還元セールが相次いだ(写真/朝日新聞社)

 今年10月に迫った消費税増税。米中貿易戦争激化による景気の落ち込みなどもあり、直前になって増税が延期される可能性はあるものの、このままいけば10月1日から消費税率が10%に引き上げられる。そんな中、まことしやかにささやかれているのが「消費税が増税される前に金を買ったほうが得」という話だ。
 
 アエラ増刊『AERAwithMoney毎月3000円で純金投資』では、過去3回の増税時(消費税3%、5%、8%)に金価格が上がったのか、検証を行った。

【グラフで見る】2014年、消費税8%導入時の金価格の推移は…?

■増税分だけ得するのは計算上の話

 金は買うときも売るときも消費税がつく。つまり金を買うときは消費税を支払い、逆に金を売るときは消費税分がもらえる仕組みになっている(貴金属会社の場合)。

 たとえば消費税率8%のときに1グラム=4000円で金を買うと、消費税込みの販売価格は4320円。その金を消費税率が10%に引き上げられたあとに売ると、金の買い取り価格が販売価格4000円と同じであれば、税込み価格は4400円。増税された消費税2%分、1グラムあたり80円分が得になる計算だ。

 それでも、ちまたに広がる「消費税増税前に金を買うと得する」という話に乗ってはいけない、と貴金属トレーダーの豊島逸夫さんは警告する。

「金の価格は日々、動いています。消費税が8%から10 %に増税されると、確かに数字上は2%分の利益が出そうな気がしますが、金の価格が1日、2%以上変動することなんて日常茶飯事です。

 また、金を買うときの販売価格と、売るときの買い取り価格には、常に100円前後の開きがあるので、消費税2%分の利ざやなど、すぐに吹き飛んでしまいます。手数料を乗り越え、しかも相場を乗り越えて初めて利益が出るのが金への投資です」(豊島さん)

 そこで実際に日本で消費税率が3%、5%、8%に引き上げられたときの金の値動きを検証してみた。

 まずは消費税が初めて導入された1989年4月の税率3%時。導入前の3月の税抜き1グラムあたりの金価格は1665円、導入後の4月は1666円と全く変化がない。価格に変化がないのであれば消費税3%分、利益が出たのかというと、金価格が1日で数%動くのは日常茶飯事なので、やはり増税による利益が生まれたとは言い難い。ちなみに導入1年前の1988年4月には1865円だったので、むしろ導入直後は価格が低迷している。

 消費税還元セールフィーバーに沸いた1997年4月の5%の引き上げ時も、3月は1439円、4月は1440円と1円しか変化せず、導入後は国内景気の低迷やアジア通貨危機の余波もあって、1998年1月には1254円まで下がっている。

 2014年4月の8%引き上げ時は3月で4446円だった価格が4月には4332円に下落。その後も4200~4300円での横ばいが続いた。この結果から、消費税増税前に金に投資しても、増税分の利益が生まれるわけではないことがわかる。

■金投資の「きっかけ」としては意義あり

 ただ、1000兆円を超える日本の財政赤字を考えれば、消費税が20%近くまで引き上げられる日が来てもおかしくない。

 消費税率に相当する諸外国の税金の率は、ハンガリーの27%を筆頭に、上位10カ国はすべて18%以上とかなり高い。

「今回の増税に乗じて金を短期売買して儲けようというのは甘い考えといわざるをえません。しかし、急速に進む日本の少子高齢化を考えると、将来、消費税率がさらに引き上げられるのは必至だと思います。

 老後のことや、まだ幼いわが子のことを考えると、長期目線で金を買って資産防衛したほうがいいんじゃないか。そう考える『きっかけ』になるという意味では、消費税増税前に金を買い始めるのは間違いではありません」(同)

 ただ、同じ金融商品でも株や投資信託を購入するのに比べて、現物の金をまとまった金額で買うというのは心理的なハードルが高い。

「金といえばかつては危ない、怪しいと色眼鏡で見られることも多かったんです。『純金積立』という、手軽で信頼できるサービスが普及して、金投資のハードルは格段に低くなりました。

 でも、一般の方からすれば、少しお金に余裕があるから海外旅行に行こうなどという発想はあっても、『今、金を買わなきゃ』と積極的には思わないはず。現在、金価格が上昇中というニュースを見て『金、いいかもね。考えておこう』と思ったとしても、すぐ忘れてしまうのではないでしょうか。その意味で、『増税前だし、金でも買ってみようか』という感じで消費税増税を機に金投資を始めるのは、いいと思いますよ」

(取材・文/安住拓哉、伊藤忍)

※アエラ増刊『AERA with Money 毎月3000円で純金投資』の記事に加筆・再構成

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安住拓哉

安住拓哉

出版社勤務を経て2021年に独立。経済関連記事全般が得意。取材・執筆歴20年以上。雑誌の取材記事の他、単行本のライティングも数多く手掛ける。

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