(写真:PIXTA)
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 金融市場の混乱や、地政学リスクの高まりで金が買われる状態が続いている。金の国際指標であるニューヨーク先物価格は8月に入り、1トロイオンス1500ドルを突破。6年ぶりの高値を付けている。

 2019年に入って、原油輸出の要衝であるホルムズ海峡周辺における米国とイランの間の緊張、イランの核開発問題など、地政学的リスクが顕在化したこともあり、上昇基調は続いていた。だが直近の上昇の一番の要因は「米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の転換」(田中貴金属工業の幹部)だろう。昨年まで、米国は利上げモードにあった。金融政策が正常化していけば、金利を生まない金の出番はなくなる。しかし、10年半ぶりの利下げに動いたことで、金が再び注目されることとなった。

 世界各国の中央銀行が継続的に金の購入量を増やしている点も価格水準をじわじわ押し上げている。金の業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、19年上期、世界の中銀は計374トン(約170億ドル)の金を買い増した。世界の中銀と公的機関は18年、金兌換(だかん)制度を廃止した1971年のニクソン・ショック以降で最大となる656トンを購入したが、19年はそれを上回るペースでの買いが続いている。昨年からの米中貿易摩擦やトランプ政権の減税による米国の財政悪化に対する懸念が、基軸通貨ドルの信認低下となり、ドル下落に備える動きにつながっていると言えそうだ。

 金価格はどこまで上がるのか。金の価格動向に詳しいマーケット・アナリストの豊島逸夫氏は「今がピーク。上がっても1トロイオンス1550ドルだろう」と話す。現在の価格水準は、米中貿易戦争激化など一連のリスクをすべて織り込んだ、先物主導でつくり出されたものと見ているからだ。「トランプ大統領が対中政策を軟化させたりするなど、リスク要因が緩和すると、一気に下げに転じるだろう」(豊島氏)。しかし、昨年から続く中銀の買いもあって下値も限定的。「1400ドル近辺で落ち着く動きになりそう」と、豊島氏は見ている。

 日本では、国際価格の上昇を受けて、金の国内小売価格が5400円前後で推移している。1980年以来、約40年ぶりの高値水準だ。国際価格が高値を付けた6年前と比べて円安・ドル高であることが、国内価格を押し上げた。国内の貴金属店では価格が高いうちにと、金を売却する動きが相次いでいる。世界経済に不透明感が増す中、金を巡る狂騒が続きそうだ。

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