世界市場に「汚れた金塊」出回る、精巧な偽造印で違法品を洗浄

世界市場に「汚れた金塊」出回る、精巧な偽造印で違法品を洗浄
8月28日、偽造された金地金(金塊)が世界の金業界を揺るがしている。写真はメタロア社の儀損を見抜けるインクを刻印した金塊。スイスで7月撮影(2019年 ロイター/Denis Balibouse)
[ロンドン 28日 ロイター] - 偽造された金地金(金塊)が世界の金業界を揺るがしている。密輸された金や違法な金を「洗浄する」ために主要な製錬業者の偽造された刻印の付いた金地金が、世界の市場に入り込んでいる。
製錬業者や銀行の幹部がロイターに語った。
偽造された金地金を検出するのは難しく、麻薬ディーラーなどの犯罪組織や制裁対象国の政権にとって格好の資金源になっているという。
関係者4人の話では、重量1キログラムの金地金(キロバー)の少なくとも1000本が偽造と判明した。毎年200万─250万本のキロバーを生産する金業界全体に偽造品が占める比率はわずかた。
だがスイスの精錬大手バルカンビのミハエル・メサリク最高経営責任者(CEO)は「最新の偽造は極めて高度に行われている」と指摘。2000本程度が発見されたかもしれないが、はるかに多くの偽造品が出回っている公算が大きいと付け加えた。
より安い金属の塊に金をめっきした偽造品は業界では割と一般的で、検出も容易な場合が多い。
だがこれらの事例では、偽造は巧妙に行われている。金は本物であり、純度は非常に高く、刻印だけが偽物だ。刻印の偽造は、紛争鉱物の流通阻止やマネーロンダリング(資金洗浄)防止のための世界的な措置をかいくぐる比較的新しい手法だ。
2000年代半ば以降の非公式な採掘や違法な採掘のブームは、金価格の上昇が引き金となった。金地金は一流の精錬業者の刻印がなければ、地下の販売網への流通や低い価格での売却を強いられることになる。アフリカの一部やベネズエラ、北朝鮮といった西側の制裁対象となっている国や違法な場所で生産された金は、スイスなどの主要ブランドの刻印を偽造することによって、市場に投入され、犯罪組織や制裁対象国の政権に資金を流す手段となり得るのだ。
これまでに発見された偽造品を誰が製造したかは明らかではない。だが関係者はロイターに、大半の偽造品は当初、金の世界最大の生産国で輸入国でもある中国で作られ、香港や日本、タイのディーラーや商社を経由して市場に入り込んだと思われると話した。これらの国で主流金ディーラーによっていったん受け入れられれば、偽造品は即座に世界のサプライチェーンに広がり得る。
事情に詳しい10人の関係者がロイターに語ったところによると、2017年にJPモルガンの金庫で同じ識別番号が刻印された少なくとも2本のキロバーが発見された。金庫の正確な場所は不明だ。この件についてJPモルガンはコメントしなかった。
偽造された金地金が発見された場合、該当する製錬業者に返品される。スイスの税関によると、イタリアと隣接するティチーノ州の地元検察には、2017年と18年に655本の偽造された金地金が報告された。同州ではスイスの大手精錬会社4社のうち3社が操業している。
精錬業者の幹部は、偽造品は他の国でも報告されていると話した。
市場関係者の話では、JPモルガンは金庫での偽造品発見を受けて、保有する金を全面的に点検した。1人の関係者は、その結果として約50本の偽造された金地金が見つかったと指摘。別の関係者によると、数百本が発見されたという。これについてJPモルガンはコメントしなかった。
発見された偽造品の本数は2017年以降、減少している。だが精錬業者の話では、偽造はますます高度になっているため、問題は拡大している可能性がある。
バルカンビのメサリク氏の話では、2017年には数百本の金地金に同じ識別番号が刻印されていることが判明。刻印にはつづりの誤りやロゴの欠陥のほか、過度に深いか浅い刻印も見られた、と別の精錬業者は話した。
メサリク氏は、現在では偽造には高度な機械が使われているとみられ、偽造品の精度は上がっていると語った。それでも機械がつかんだ痕跡や不完全な鋳型の痕跡といった明確な証拠が存在する場合もあるが、見逃しやすいという。
偽造品かどうかを確認する最も信頼できる手法は、純度の試験だ。金地金の標準純度は99.99%だが、スイスの精錬業者が3本の偽造品を調べたところ、2本は99.98%、残る1本は99.90%だった。
スイスの税関は、ティチーノ州の検察に報告された655本の偽造品について、一部は純度は99.99%をわずかに下回る水準だったと説明した。
スイスの精錬会社幹部は「偽造のレベルは大きく向上している。われわれでさえ、見抜くのが難しい」と指摘。「だが純度が少し低い。偽造業者はわれわれが使っている機器を持っていないからだ」と語った。
この問題に精錬業者は技術で対応している。
精錬大手メタロアは今年、金地金に偽造を見抜けるインクで刻印を始めた。これは偽造を防止する紙幣の印刷と同様、特定の光線やフィルターを介して見た場合、異なる形に表示される。
RAMPとバルカンビは、金地金の表面をきめ細かくスキャンして記録した上、それぞれの地金をスキャンして記録と一致しているかどうかを確認する機械やアプリを供給する。
アルゴルは、同社の金地金には偽造防止の多様な仕掛けが施してあるとしながらも、セキュリティー上の理由で詳しくは説明しなかった。
精錬業者を認定するロンドン貴金属市場協会(LBMA)は現在、偽造防止の基準を策定している。同協会はまた、セキュリティーを強化する手段として、生産されたそれぞれの金地金に関する情報を包含した世界的なデータベースの構築を提案している。
だが、精錬業者の偽造防止策は最近導入されたばかりであり、データベースが整備されるのは早くても2020年だ。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab