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金最高値、家計に映る悲喜こもごも

知っ得・お金のトリセツ(20)

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40年ぶりに最高値を更新した金の国内価格。こういう時、家計のちょっとしたお小遣い稼ぎとして登場するのが金の売却だ。金の売却、とは大層な響きだが要は「ご自宅に眠る貴金属の買い取り致します。切れたネックレス、壊れた指輪……なんでもOK」というあれだ。しかも時はちょうどコロナ禍。ステイホーム中にいそしんだ片付け過程で発掘された物も多いのだろう。街の古物商が活況だという。

街の買い取り商で高値を実感

ものは試し。やってみた。片方だけになったピアスや切れた鎖、バブル崩壊とともにお蔵入りしたネックレスなど、こまごました雑多なものばかり。ルーペで矯めつすがめつしてもらうのも申し訳ないと恐縮していたが、なんと。まとめて10万円で買ってくれるという。マイナポイントでもらえる5000円の20倍じゃないか。金価格の上昇ぶりを身をもって感じた。

金の買い取りはあくまで重量勝負。ブランドやデザインは溶かしてしまうので関係ない。しかも細工がしやすくアクセサリーによく使われるのは18金で、「純金」と呼ぶ24金からみると純度は18÷24つまり4分の3がけだから価格も相応になるという。分かりやすい。「喜平」と呼ばれる鎖状のいかにも金そのもののネックレスがバブル期に重宝がられたのも実物資産としての観点からだ。

日本は金の純輸出国

金価格上昇につれて街で買い取りが盛り上がるのは毎度のこと。リーマン・ショック後の2008年や11年の欧州債務危機に伴う価格上昇時にもブームがあった。田中貴金属工業によると今回は既に昨年から盛り上がりを見せていたという。19年の金買い取り量は3万3742キログラムと18年比倍増。今年は「さらに上回るペース」という。

家計から買い取られた金は輸出へと回る。かつてはバブルに向かう好景気の中、金の大量輸入国だった日本だが2000年代半ばに純輸出国に転じて久しい。一人ひとりの消費者にとっては高値を捉えての当たり前の利益確定行為だが、国全体でみると「過去の栄光」の切り売りに見えなくもない。

デフレ? インフレ? 金活況の帰結は?

背景にあるのが長引いたデフレだ。実物資産の金を紙幣の現金に換える行為は物価が上がらないデフレ下では正解といえる。足元で繰り広げられている光景も同じ文脈で理解できるのか? 田中貴金属の加藤英一郎貴金属リテール部長は「今回は違いを感じる」という。「売り買いが拮抗して両方ともに高水準。今までにはなかった現象だ」。今度こそ、と将来のインフレや老後資金不足を心配する中高年齢層が高値圏を気にせずに金を購入する姿が目立つという。

もう1つ、今回の金ブームに特徴的な取引を街の買い取り商で聞いた。

「飲食店のオーナーさんがね、バー(金の延べ棒)を持ってくるんですよ。従業員の給料を払わなきゃって」。バーの種類は色々あるが500グラムもあればバー1本で350万円以上調達することができる。コロナ禍で雇用調整助成金や住居確保給付金の使い勝手が問題になる間も、今日もまた街の「金市場」には金が持ち込まれ現金化されている。

山本由里(やまもと・ゆり)

1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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