作家・福井晴敏の同名小説を原作に、阪本順治監督と福井が『亡国のイージス』以来、約8年ぶりにタッグを組んだ映画『人類資金』が10月19日から公開をスタートする。旧日本軍の秘密資金である"M資金"を題材に、詐欺師・真舟雄一(佐藤浩市)の前に謎の男・石優樹(森山未來)が現れることで物語は展開。50億円を報酬に、10兆円にものぼるM資金を盗み出すことを持ちかけられた真舟は、全世界を巻き込んだ前代未聞のマネーゲーム計画をたくらむ。

佐藤浩市
1960年生まれ。東京都出身。今年は、『草原の椅子』『遺体 明日への十日間』『許されざる者』『人類資金』『清須会議』など多くの映画に出演。阪本順治監督作では、『トカレフ』(94年)、『顔』(00年)、『KT』(02年)、『亡国のイージス』(05年)、『闇の子供たち』(08年)、『大鹿村騒動記』(11年)などに出演し、本作が10作目となる。
撮影:MOTO

この真舟を演じたのが、今年5本もの映画に出演した佐藤浩市。これまで10本の阪本監督作に出演し、本作は『KT』(2002年)、『みんな、はじめはコドモだった「展望台」』(2008年)以来となる阪本監督作での主演を務める。阪本イズムを知り尽くした彼にとって本作とは? 役作りや共演のヴィンセント・ギャロ、そしてM資金。さまざまな話題をインタビューで追った。

――8月の完成披露会見で、佐藤さんは本作を「骨太なエンターテイメント」と表現していました。その真意をお聞かせください。

形態として"エンターテイメント"を採用しただけであって、その中で阪本順治監督が考える「お金と人間」。その着地点を考えられる要素があって、見る側に対して広げられるものがあるので、そういう言い方をしました。

――M資金についてはどのような印象を?

昭和の企業のトップたちは、当然、戦中戦後を知っていたわけです。それだけにその人たちにとってはリアリティがあるんですよね。平成の起業家たちは、"M資金"と聞いても、「あるかもしれない」とはなりにくいでしょうね。でも日本軍が持ち帰ってきている物は、絶対にあるんです。実際に金塊は東京湾の底から見つかっているんですよね。だから、「どこかに蓄えはあったはずだ」と考えるほうが自然。だから、M資金詐欺にもだまされてしまう人がいたんだと思います。

――真舟雄一はM資金での融資をかたる詐欺師。冒頭でもそのシーンがありますが、「M資金詐欺」自体は社会問題になるほど多くの人に知られていました。

僕の中で印象が強いのは、田宮(二郎)さんの自殺でした。実名を出してよろしいのかどうか分かりませんが、高名な俳優さんが猟銃自殺をして、その背景にはM資金があったのではと言われたのが、僕の中ではインパクトがあった事件でした。でも、それをなぜ、この平成でやるのかという思いは阪本監督に対してもありました。最初に「M資金」というワードを監督から聞いて、その後、脚本ができあがって読んでみると、エンターテイメント要素の強いもので。正直、戸惑いはあったんです。でも、そういうボールの投げ方が今の世の中では、いちばん正しい球の種類なのかなと。お客さんの気持ちの中で、経済やお金の存在価値などを少し考えてみようとなるのであれば、エンターテイメントという部分での福井さんの協力があったのが正解だったのかなと思います。……続きを読む。