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「イスラム国」驚きの「シノギ」 買うと損する金貨、略奪、密売も

イスラム国(IS)がつくった金貨。上部に「イスラム国」、中央に「21カラット 1ディナール 4.25グラム」、下部に「カリフの統治は預言者の道」などと書かれている。モスル市内の貴金属店で見せてもらった=2017年5月31日、仙波理撮影
イスラム国(IS)がつくった金貨。上部に「イスラム国」、中央に「21カラット 1ディナール 4.25グラム」、下部に「カリフの統治は預言者の道」などと書かれている。モスル市内の貴金属店で見せてもらった=2017年5月31日、仙波理撮影

目次

 またたく間に勢力を広げ、中東のイラクとシリアの広い地域で制圧した過激派組織「イスラム国」(IS)は、「国家」を自称していました。自ら貨幣もつくっていたといいます。その財源を支えたのは略奪、密売、上納金など、ヤクザ顔負けの「シノギ」でした。知られざるISの錬金術を解説します。(朝日新聞国際報道部)

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「省庁」や「知事」を設置、独自の通貨も

ISに爆破されたモスルのヌーリ・モスク脇を通って避難する住民=2017年7月2日、杉本康弘撮影
ISに爆破されたモスルのヌーリ・モスク脇を通って避難する住民=2017年7月2日、杉本康弘撮影

 ISは2014年6月、イラク北部の都市モスルを制圧すると、自分たちは「国家」になったと宣言。モスルはイラクで2番目に大きい都市で、約200万人が住んでいました。

 それまでに支配していた都市も含め、ISはシリアとイラクにまたがる広大な地域を「領土」としました。

ISがモスルを制圧した2014年6月の時点で、支配下にあると主張していた地域
ISがモスルを制圧した2014年6月の時点で、支配下にあると主張していた地域 出典: 朝日新聞

 形だけの宣言にとどまらず、ISは国家としての体裁を整え始めます。

 法務、宗教、戦争、鉱物資源など14の「省庁」をつくって専門家や「官僚」を置き、支配地域には「知事」を任命しました。

 さらに、独自の金・銀・銅貨も発行。道路の補修といった住民サービスも提供し、ガソリンの販売価格は半値に下げたといいます。

1枚買うと2000円を損する金貨

ISが発行したとされる貨幣=インターネット上の動画から
ISが発行したとされる貨幣=インターネット上の動画から 出典: 朝日新聞

 戦闘員には給料を支払い、ネット上を中心に宣伝活動にも力を入れていました。

 こうしたことをするためには、まとまったカネが必要です。

 収入源の一つとされるのが、略奪。ISはモスル占領時に銀行を襲い、5億ドル(約550億円)ともいわれる大量の現金を手にしました。

 身代金目的の誘拐も多発しました。

ISがつくった金貨。麦があしらわれ、「イスラム暦1436年」「1ディナール」など書かれている=2017年5月31日、仙波理撮影
ISがつくった金貨。麦があしらわれ、「イスラム暦1436年」「1ディナール」など書かれている=2017年5月31日、仙波理撮影

 インターネットで公開された動画では、アラビア語で「イスラム国」と刻印された金貨を手に喜ぶ住民の様子が映し出され、米ドルのことを「無価値の紙切れだ」と批判しました。

 しかし実際には、住民たちは「買うと損をする」と嫌がっていたといいます。

 というのも、金貨の価値は19万イラクディナール(日本円で約1万7千円)ほどしかないのに、21万イラクディナール(約1万9千円)で売りつけていたからです。

石油の密売、収入の4分の1を占める

フランスのテロリズム分析センターが推計した、ISの収入のうちわけ
フランスのテロリズム分析センターが推計した、ISの収入のうちわけ 出典: 朝日新聞

 金貨1枚あたり約2000円のピンハネ。石油業者らがしぶしぶ買っていたそうです。

 ISの通貨は、もともとあったイラクディナールに取ってかわることはありませんでした。ただ、ISが支配する油田でとれた石油の取引には、この独自通貨を使うことが強制されたといいます。

 ISは石油の生産や流通を地元住民に任せていました。その代わり、金貨を使って手数料を納めさせていたのです。

 フランスのテロリズム分析センターの推計では、2015年の1年間でISの収入は約24億ドル(約2600億円)。その25%が石油の密売によるものだったそうです。

寄付の名目で金銭巻き上げ

戦闘で破壊し尽くされたモスルの旧市街から避難する住民=2017年7月2日、杉本康弘撮影
戦闘で破壊し尽くされたモスルの旧市街から避難する住民=2017年7月2日、杉本康弘撮影

 ところが、最大の金づるは別にありました。支配地域の住民、約800万人から巻き上げた「税」や「罰金」です。収入全体の33%を占めたといいます。

 ISは「聖戦士へのカンパ」を名目に、住民に対して金銭の支払いを強制。イスラム教徒の義務とされている「喜捨」だと言い張って正当化しました。本来の「喜捨」は、貧しい人たちへの寄付が目的です。しかし、ISの支配下では戦闘員や関係者ばかりが肥え太りました。

 毎月の売上高の20~25%を支払え、さもなければ店は没収だ。そうISに迫られたと、モスルの商店主らは朝日新聞の取材に証言しています。「ショバ代」を迫るヤクザのようなやり口です。

ISの支配地域は徐々に狭くなっている
ISの支配地域は徐々に狭くなっている 出典: 朝日新聞

 イラク政府軍は2017年7月、モスルを奪還。人口密集地を失ったことで、ISの収入は8割減少するとイギリスの調査会社は分析します。

 ただ、イラク人研究者のヒシャム・ハシミ氏は、ISが現在もシリア東部の油田の6割を支配し、月5000万ドル(約55億円)以上を得ているとみています。

 戦闘を続ける余力は、なお残っていると言えそうです。

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