【東京五輪 社会学】造幣局、メダル5000個すでに製造…1年3か月後の開幕まで輝き守る

スポーツ報知
既に完成しており、1年間保管されることになった東京五輪のメダル(大会組織委員会提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって東京五輪・パラリンピックの延期が決まったが、注目の金銀銅メダルは約5000個の製造が全て終わっている。製造したのは貨幣鋳造を担う造幣局(大阪市北区)。メダルには今夏の開催に備えて「TOKYO2020」と刻印されていたが、大会呼称はそのまま使用されることが決まり、担当者は胸をなで下ろした。五輪では初めての100%リサイクルメダル。選手の胸に輝く日まで、厳重な保管の日々が待つ。(古田 尚)

 新型コロナウイルスの感染拡大のため、史上初めて延期となった五輪・パラリンピックの東京大会。既に完成している金銀銅のメダル5000個に新たな問題が持ち上がった。「TOKYO2020」の大会呼称は継続されることになり、作り直す必要はなくなったが、1年3か月後の開幕まで、保管については細心の注意が必要となった。事業部装金課の岡田真一さん(48)は「銀や銅は色が経年で変色する。一番は湿度を低くするのが理想で、30%くらい。それができる環境で保管することができれば」と話す。保管場所については現在、組織委員会と協議中だ。

 東京大会のメダルは五輪史上初めて、100%のリサイクルとなった。大会組織委員会は「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」と銘打ち、2017年4月1日からの2年間、全国各地で携帯電話などの小型製品から金属を回収。確保された金32キロ、銀3500キロ、銅2200キロが、今大会のメダル5000個に使用された。「本当に集まるか心配もありましたが、品位(貴金属の純度)の良いものをいただいたので、作業に変更はありませんでした。銀や銅の板から丸く型を抜いたら、残りを組織委員会に返してまた板にする。無駄のないように」(岡田さん)。徹底的に環境に配慮したメダルが完成した。

 重さも「五輪史上最重量」。金、銀メダルは500グラム以上と規定されたが、造幣局で造る記念硬貨とは異なり、デザインが決まらない段階で500グラムに到達させる試行錯誤の作業が必要だった。岡田さんは「デザインが決まってから金型の形状を決めるまでが一番苦労しました。事前のテストでは一度も500グラムは出なかったので、模様をプレスしたあとに500グラムと出るかどうか。重量が出た時は感動しました」と振り返る。

 造幣局に届いた銀と銅の板をメダルの丸い形に抜き、より美しくシャープな模様にするため3度もプレス。さらにより深みを出す陰影をつけるため硫黄成分の液につけて一度真っ黒にし、ブラシや重曹などを使って全て手作業で磨き上げた。金メダルはさらに金6グラムの規定があり、銀メダルを透明な液に浸して金メッキを施した。「軽く薄いので、これもすごく技術がいる自慢のアピールポイントです」(岡田さん)と、職人技が凝縮されている。

 「五輪に出られる人間でもないし、選手と共有できるのは重さ。メダリストで『重たい』と言っていただけると共感できます」と岡田さん。同じく装金課の小野林翔平さん(29)は「作った側としてはメダルがぶつかり合うのが嫌で…。2個取った人とか重ねて何個も首にかけますが、どんなにきれいにしても、その瞬間にキズついてしまいます。メダルをかむ姿も見たくないかな」。手塩にかけたメダルは来年、1年間の“お蔵入り”期間を経て日の目を見る。光沢の陰りも1ミリのキズもないまま、選手の胸で輝く日を関係者は心待ちにしている。

 ◆造幣局 硬貨、勲章や褒章、金属工芸品などを製造する独立行政法人。1871年、明治政府によって創設された。大阪市北区の本局のほか、さいたま市と広島市に支局がある。五輪では1964年東京、72年札幌、98年長野(パラリンピック含む)の金銀銅メダルを製造。本局では毎年4月中旬に1週間行われる「桜の通り抜け」が名物。約50万人が訪れる春の風物詩だが、今年は新型コロナウイルスの感染予防のため中止となった。

 ◆夏の甲子園メダルも製造

 造幣局は勲章などのほか、夏の全国高校野球選手権大会の優勝、準優勝メダルと盾の製造も手がけている。今年は春のセンバツが、新型コロナウイルスの影響で開催中止に。夏の大会の開催も見通しが立っておらず、関係者は気をもんでいる。岡田さんは「造幣局で作っているのは夏だけで、メダルはだいたい大会期間中、ベスト4が出た時点で作り始めますが、今年の夏はどうなるのか」と、高校球児の心中を思いやった。

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