MAGAZINE &
SALON MEMBERMAGAZINE &
SALON MEMBER
仕事が楽しければ
人生も愉しい

ART

2021.08.10

淡路島にゴールドの屋台が誕生!? ユーモアをデザインに落としこむ【森田恭通】

デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vo.16。淡路島にある建坪14.5坪に、人生初の屋台をデザインした森田恭通氏。そこに注ぎこんだのはユーモア。「ユーモアはコミュニケーションのうえに成り立つ、ビジネススキルのひとつ」と語る、その真意とは。

屋台

淡路島の気候に合わせた全天候型の屋台。店舗の両サイドにある巨大な提灯(ちょうちん)が目印。

ユーモアはコミュニケーションのうえに成り立つ、ビジネススキルのひとつ

デザイナー森田恭通、人生で初めて、至極まじめに屋台をデザインしました。

場所は淡路島西海岸で、外食産業を牽引するバルニバービが展開する、〝食〞をベースとした地方創生プロジェクト「Frogs FARM」内。代表を務める佐藤裕久さんが僕に屋台のラーメン屋のデザインを依頼してくださったということは「森田なら普通の屋台を作るわけはない」と思ってくれたからかもしれません。とにかくまじめに、そして来てくださった方が思わず突っこみたくなるようなデザインを考えました。極端な例でいえば、アストンマーチンに乗った紳士が乗りつけても様になり、軽トラのおっちゃんが食べていても様になる。そんな屋台を思い描きました。

コンセプトは親しみのある「屋台」。通常営業時は屋台を引っぱりだし、建物から屋台が突きだすデザインを提案しました。暗い夜道でお客を引きこむ屋台のオレンジ色の灯をイメージしたオリジナルのペンダントライトは、カバーの上から光が漏れ、ゴールドの天井に反射し、ふんわり優しい灯をともします。

壁はガルバリウム鋼板の波板で覆い、ヴィンテージジーンズのように、クロメート(ゴールドに虹色の発色が美しい)を下地にダメージを施し、敢えて腐食しているように見せています。カウンターの周りに配置したのは、屋台でよく見るビニール製の丸椅子をイメージし、座面をチーク材の削りだし、足をクロメートで仕上げたスツール。重めに設計したスツールは、海岸に吹く強い風でも倒れません。

僕は訪れた人が突っこみたくなるようなユーモアをデザインに落としこむように意識しました。ユーモアは人間関係の潤滑油といわれるほどコミュニケーションには欠かせない存在。ビジネスもコミュニケーションです。一方的では成り立ちません。

僕の仕事に当てはめてみると、デザイナーである僕はボケ担当。僕が作ったデザインを見て、訪れた人が「なんでやねん!(笑)」と突っこむ。突っこまれない一方的なデザインでは僕には意味がないのです。今回の屋台では「なんで屋台がゴールドやねん」「なんでビニールの丸椅子が木でできてんねん」と突っこんでほしい。デザインが面白ければ、店の人や僕がいなくてもお客さんが写真に撮ってSNSに上げてくださったり、話題になることで、新たな客層やマーケットを呼んでくれるからです。

淡路島には妻の実家があり、年に数回訪れます。バルニバービの佐藤さんが地元企業と連携し、地方創生に乗りだしたのは2019年のこと。それまでは何もなかった西海岸に活気が生まれ、地元に雇用が生まれ、人の流れができました。これも佐藤さんのカリスマ性とオリジナリティあっての功績だと思います。

コロナ禍は悪いことだけではありません。今まで見えていなかった日本各地に眠る魅力が少しずつ目覚めてきています。新たな魅力を掘り起こすのはセンスのある経営者であり、目覚めさせる起爆剤がデザインだと僕は思います。

僕自身、今回の仕事で「屋台からホテルまで」という新たなキャッチがつくれました(笑)。地方創生にはまだまだ可能性が秘められています。素晴らしい宝物にユーモアを注ぎこみ、新たなマーケットを生みだしていきたいですね。

森田連載
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら

この連載をもっと読む

連載
森田恭通/経営とは美の集積である。

デザイナーとして、多くの経営者の経営展望や理念、彼らの求める機能やニーズに応えてきた森田恭通氏。そのなかに見えたのは、経営者こそが持つ、オリジナリティ溢れるセンスと美学だという。「経営」と「美」の関係性、その先にあるものとは。

TEXT=今井 恵

PHOTOGRAPH=SEIRYO YAMADA

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2024年6月号

ボルテージが上がる! 魂のハワイ

2024年6月号表紙

最新号を見る

定期購読はこちら

MAGAZINE 最新号

2024年6月号

ボルテージが上がる! 魂のハワイ

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ6月号』が4月25日に発売となる。今回のテーマは、安息と刺激が共存するハワイ。オアフ島に加え、ハワイ島、ラナイ島と3島にわたるアイランド・ホッピングを総力特集! 知る人ぞ知る、超プライベートリゾートから、新しくオープン&リニューアルしたホテル情報、最旬グルメ、死ぬまでに一度はみたい絶景、最新ゴルフ場事情など、今知りたいハワイを完全網羅する。 表紙は、ソロアーティストとして新たな道を突き進む、三宅健と北山宏光のふたりが登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

定期購読はこちら

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる