「ゴールド・ステート・コーチ」は、ロイヤルファミリーが所有する数多くの馬車のなかでも最も古く、最もゴージャスで、最も有名な馬車のひとつとして知られています。非常に価値が高く、トップクラスの重要行事でのみ使用されているため、5月6日に行われるチャールズ国王の戴冠式の日に、再びお目見えするはずだとみられています。

ここでは、この馬車にどれほどの価値があるのか、本物の金でできているのか、乗り心地はどうなのか……といった疑問を深掘りしつつ、この馬車の歴史を紐解いていきます。UK版『Good Housekeeping』より。

「ゴールド・ステート・コーチ」はどんなときに使われる?

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REBECCA NADEN//Getty Images

「ゴールド・ステート・コーチ」は王室の行事において君主の移動のみに使われますが、その歴史と価値の高さから、最も重要な行事でのみ使用されることになっています。

1800年代以降、戴冠式の日に、新国王または新女王がバッキンガム宮殿からウェストミンスター寺院まで移動する際に使用され、式典後はこの馬車でロンドンの街を行進するのが伝統となっています。

このほかにも、英国君主の即位を記念して行われるジュビリーの式典や、議会の開会式などの記念すべき節目にも登場しています。

最後に登場したのはいつ?

「ゴールド・ステート・コーチ」が最後に公の場に姿を現したのは、2022年に行われたエリザベス女王のプラチナ・ジュビリーの記念式典パレード。このときは、馬車の中には実際は誰も乗っておらず、窓に1953年の戴冠式の日の女王のホログラムが映し出されました。

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WPA Pool//Getty Images
プラチナ・ジュビリーのパレードでは、ホログラムで映し出されたエリザベス女王が「ゴールド・ステート・コーチ」に乗って登場

そのため、最後にロイヤルファミリーのメンバーが実際に乗車して公の場に現れたのは、さかのぼること2002年となります。エリザベス女王の即位50年を祝うゴールデン・ジュビリーのときでした。

本物の金でできている?

「ゴールド・ステート・コーチ」には、表面に本物の金が使用されていますが、すべてが金でできているわけではありません。実は木製で、その表面が薄い金箔でコーティングされているのです。

作られたのはいつ?

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1953年、戴冠式の日に「ゴールド・ステート・コーチ」に乗車したエリザベス女王

「ゴールド・ステート・コーチ」は、1762年にジョージ3世のために作られたもので、260年以上の歴史があります。しかし残念ながらジョージ3世の戴冠式には間に合わず、1762年11月25日の議会開会式で初めてお披露目されました。

この馬車は2度の世界大戦を乗り越え、現在も完成当初とほぼ同じ姿をしています。エリザベス女王のシルバー・ジュビリー(1977年)のために外装の金箔を張り替えたり、さまざまな節目で内装の装飾を変更したりと、長年にわたって改修が行われてきました。また、第二次世界大戦中は長らく保管されていたため、女王の戴冠式までに修復を終わらせる必要があったそうです。

なお、ヴィクトリア女王の死後、息子のエドワード7世の戴冠式のために唯一大きな変更が加えられ、御者が乗る前方のボックスシートが撤去されました。馬車の中の視界を一部遮っていたためだそうです。

そのかわり、御者は馬にまたがって馬車の動きをコントロールするようになり、中に座るロイヤルはより多くの人々の視界に入るようになりました。御者は現在も、3世紀以上前と同じデザインの赤&ゴールドのユニフォームを身につけています。

製作費はいくら?

この「ゴールド・ステート・コーチ」は、7661ポンド18シリング11ペニーで製造されました。これは、現在の価値に変換すると約200万ポンド(約3億3000万円)に相当するそう。

その重さは約4トン、高さは12フィート(約3.6メートル)、全長はその倍の24フィート(約7.3メートル)という驚異的な大きさでも知られています。動かすためには8頭の馬が必要で、歩く程度のスピードしか出せないのだとか。

どんな馬が引く?

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Tim Graham//Getty Images
御者とともにこの馬車を引くのは、「ウィンザー・グレー」と呼ばれる灰色の馬

「ゴールド・ステート・コーチ」ができあがった当初は、王室専用に繁殖・保護されていたクリーム色の馬がこの馬車を引いていました。しかし残念ながらこの特別な馬は絶滅してしまったため、ジョージ5世の戴冠式以降、この馬が「ゴールド・ステート・コーチ」を引くことはありませんでした。

現在「ゴールド・ステート・コーチ」は、8頭の「ウィンザー・グレー」という馬に引かれています。王室専属のこの馬は、第一次世界大戦後、ジョージ5世が王家の名を「ウィンザー」に改称したことから「ウィンザー・グレー」と名付けられたそうです。

エリザベス女王の戴冠式では、カニンガム、トービー、ノア、テッダー、アイゼンハワー、スノーホワイト、ティペラリー、マクレアリーという名の8頭が馬車を引きました。この8頭はいずれもハンプトン・コート・スタッド(飼育場)で繁殖され、女王が名付け親だそう。

どんな装飾が施されている?

この馬車は、金箔で覆われているほかにも、絵画や彫刻もふんだんに施されています。パネルの絵はイタリアの画家ジョヴァンニ・バッティスタ・チプリアーニによるもので、ローマの神々や女神が描かれています。

また、屋根や骨組みにあしらわれている天使やエンブレムは、英国を構成する国々の精神を表しているそうです。

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Tim Graham//Getty Images

乗り心地は?

ひと言で言うと、「ゴールド・ステート・コーチ」の乗り心地はよくなさそうです。エリザベス女王は2018年のドキュメンタリー番組で、乗り心地を「ひどかった」と表現しています。さらに女王は、「決して快適ではありません」「バネの上に革が張ってあるだけなので、移動には向かない乗り物です」とも述べています。

英王室の美術品や宝飾品などを管理しているロイヤル・コレクション・トラストによると、戴冠式当日は雨天で寒かったため、エリザベス女王は座席の下に湯たんぽを入れていたそう。

エリザベス女王の高祖母であるヴィクトリア女王も同じ考えを持っていたようで、自身の戴冠式以降、ゴールド・ジュビリー、ダイヤモンド・ジュビリー、結婚式などの行事では、より快適な「ステート・ランダウ・コーチ」を好んで使用していたそうです。

From Good Housekeeping UK