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スト終結後に、プラチナ相場が急伸した5の理由

南アフリカのプラチナ鉱山ストライキは、1月23日の発生から153日目となる6月24日、ついに終結に至った。当初は1週間もあればストは終結するとの見方が支配的だったが、全国鉱山労働者・建設組合(AMCU)の「生きるための賃金(liging wage)」を要求する本気度を見誤っていた形であり、過去最長・最大の被害金額となる鉱山ストに発展した。

まだ詳細な被害状況は確定していないが、直接被害のみでも100万オンス規模の生産喪失が発生したと推計され、年間鉱山生産が550万?600万オンス程度で推移しているプラチナ需給にとっては、深刻なダメージを生じさせかねない状況になっている。

もっとも、スト発生中のNYMEXプラチナ先物相場は、1ドル=1,400?1,500ドルのレンジ内でやや強含みに推移した程度であり、明確な上昇トレンドを形成するには至らなかった。今年1?6月期の平均価格は1,439.69ドルとなっているが、これは昨年7?12月期の1,426.72ドルを12.98ドル(0.9%)上回っているに過ぎず、実質的には横ばい状態と評価せざるを得ないパフォーマンスに留まっている。

しかし、鉱山ストが終結するとプラチナ相場は逆に地合を引き締め始め、7月1日の取引では昨年9月6日以来となる1,500ドルの大台に乗せる展開になっている。東京商品取引所(TOCOM)の円建てプラチナ先物相場も1グラム=5,000円の節目が再び視界に入り始めている。スト発生期間中に上昇仕切れなかったプラチナ相場が、スト終結後に上値切り上げを試す動きを活発化させているのはなぜだろうか。以下、その理由を5点ほど指摘しておきたい。



【1】ストライキの終結は織り込み済み

AMCUは従来、月額1万2,500ランドの基本給は「交渉の対象にならない」と強硬姿勢を見せていたが、6月に入ってからは政府の仲介が活発化したことや、鉱山会社が人員削減というカードを出してきたことで、労使合意に前向きな姿勢に傾いていた。このため、定期市場ではスト終結に備えて、ファンドが先行してポジション整理を進めていたため、「スト終結→買い方の手仕舞い売り」という通常予想される動きが見られなかった。

【2】生産再開にはなお時間が必要

ストライキは終結したものの、操業体制が通常レベルに復帰するには最短でも2ヶ月、通常だと3ヶ月程度が必要とみられている。長期にわたって職場から離れていた労働者の健康診断や再教育が必要なことに加え、鉱区内の施設も安全に操業ができるのか確認作業が必要とされる。加えてスト期間中の鉱山会社は、プラチナ地金供給への影響を限定するために、パイプライン在庫を使って精錬作業を続けていた。このため、鉱山内の在庫は5月から枯渇状況が報告され始めていたが、精錬作業を本格化するにはその前段階としてプラチナ鉱石の在庫積み増しも要求されることになる。

【3】需給の歪みを限定するために必要なこと

最終的にどの程度の生産喪失が発生するのかは不透明だが、ストの直接的な影響で100万オンス、操業再開までに更に50万オンス規模の生産喪失が発生する可能性がある。この分を年後半の増産でカバーするのは不可能であり、プラチナ需給バランスを維持するためには、既に消費された宝飾や自動車触媒などの地上在庫をリサイクルで再び供給項目に組み込むことが必要。そのためには、プラチナ価格の安値は許容できないことになる。また、高コストを嫌った鉱山会社が事業再編・リストラの動きを見せていることも、プラチナ価格値上がりの必要性を示している。

【4】実は良好な需要環境

鉱山ストばかりが注目を集めているが、実はプラチナ需要環境は良好。ジョンソン・マッセイ社は、今年の世界プラチナ需要が昨年実績の877.4万オンスから897.5万オンスまで拡大するとの見通しを発表している。1,400ドル水準では宝飾や工業部門からの在庫手当が活発化し易く、下値不安は限定的とみられている。

【5】根強い投資ニーズ

今年1?6月期は、プラチナ上場投資信託(ETF)のみで31.8万オンスの投資需要を創出しているが、そうした傾向はスト終結後も変化が見られない。ETFの投資残高は過去最高を窺う展開になっている。また、定期市場ではファンドの帳尻で買い越し枚数が3週間ぶりに増加に転じるなど(6月18?24日の週)、価格水準にかかわりなく短期・中長期の投機マネーがプラチナ市場に流入している。

依然として膨大な地上在庫が存在する中、短期需給バランスに混乱状況が発生している訳ではない。スイス通関やロンドンのプラチナリースレートをみても、在庫手当に特別なパニック色は観測されておらず、比較的落ち着いた状況が維持されている。こうした状況からは、パラジウム相場に見られるような急伸相場が再現されるのかは疑問視している。ただ、5ヶ月にわたるストの代償は余りに大きく、時間の経過とともにドル建て1,500ドル台、円建て5,000円台といった価格水準に対しては違和感が徐々に薄れることになるだろう。スト終結後も、それによって生じた荒波に揉まれる展開が続く見通しである。



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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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