ゴールドコラム & 特集

スタンダードバンク相場予想 「PGM」2014-06-27(第3四半期)

今回はPGMです。 中期的な相場は中立的から若干の弱含みを予想。950k toz (約30トン)のプラチナと530k toz(約16.5トン)のパラジウム、そして125k toz (約3.9トン)のロジウムが南アのストライキによって生産されなかったにもかかわらず、です。ストライキが終わってからの整理を考えるとあと2-3ヶ月はまだ生産されない状況が続くので、生産ロスはまだ増えます。

プラチナが長期間にわたって価格を崩すことはないと予測 よく聞かれる質問は「ストライキの間も上がらなかったプラチナはストライキが終わるとどの当たりが妥当な価格なのか?」ということです。まず大前提として我々はプラチナは長期間にわたって下がるとは考えていません。パラジウムに関して同じ質問に対しては、ロシアの供給に関する不確実性と残高が積みあがる南アのパラジウムETFがあり、もう少し予測が立てにくい状態です。 昨年6月に発表した我々のプラチナとパラジウムの地上在庫推定は、非常に多いものでした。この在庫の一部分は今年の大きな供給不足で減少するはずですが、まだまだ地上在庫の量は高いレベルにあると考えます。その結果、PGMの価格がここから大きく上がり続けるためにはまだ時間がかかる可能性の方が高いと考えます。 プラチナに関しては昨年半ばの相場レポートで、我々は1400ドル以下は買う価値があり、1500ドル以上への上昇は長続きしないと書きましたが、その根拠になったのが、1. プラチナ需要の調整要因(たとえば宝飾はもしプラチナ価格が1400ドルから大きく下落するとその需要が伸びる)、2. 豊富な地上在庫の存在(上昇場面ではこれが相場の上昇に歯止めをかけると考えられました)でした。この見方は今回も基本的には変わりません。ストライキの影響で少しは現物はタイトになりましたが、基本的な需給は大きく変わっておらず、プラチナ相場がここから急騰していくということはまだ起こらないでしょう。 短期的・中期的な価格の動きは「バリュー」の観点から、マーケットが落ち着いてストライキで取られたロングポジションが整理されれば、次の2点に注目します。まずその第一は、ゴールドに対するスプレッド(値差)。ゴールドとのスプレッドは短期的・中期的には100-200ドル辺りで推移すると思われます。そして第二は中国の宝飾マーケットを巡る状況です。我々の見方ではこの分野がプラチナ需要のもっとも変化しやすい分野だとみており、プラチナの全需要の30%を占める中国の宝飾需要が強いか弱いかで我々の短期的な相場の見方も変わってくる可能性があります。



パラジウムの800ドル割れは投資価値あり

パラジウムに関しては、ロング筋がどこかの場面で退出するでしょうが、我々はショートからではなくロングからアプローチするべきメタルだと考えます。パラジウムのマーケットはそもそも大きな供給不足であるということ以外にも、短期的な要因(南アのETFの残高の急増や、今年後半の中国の輸入量増加の予想など)からもパラジウム価格は下支えされると考えます。長期的視点からは、もし投機筋のロングが売りを出すとここまで上げてきた分、少し下落する可能性がありますが、800ドルを割れたところは投資価値があると考えます。

自動車販売の四大市場である米国、欧州、日本と中国での自動車の売上げをみると、米国と中国に引っ張られて世界の自動車販売台数は史上最高値を更新し続けていくことが予想できます。(Figure2)今年年初から5月まで自動車売上げは前年比7.4%増加しています。今年は年間で5.5%の増加予想、2016年には6.8%の伸びを予想します。年後半は季節的要因から伸びは鈍化する可能性が高いと思いますが、自動車販売はほぼ予定通りに行くと思います。



中国のプラチナ輸入量は輸出入統計を見る限り、中国のプラチナ輸入量は減少しており、4月の205k tozから5月は165k tozになりました。ことしこれまでの現物需要は弱く、前年同期とくらべてみても、ここ数年でもっとも需要がないことが実感できます。昨年2013年は6月に大きな価格下落があり、そのおかげで需要が伸びました。今年もそういうことがあるかもしれませんが、これまでのところはプラチナ、シルバー、ゴールドとも中国の輸入量は減少したままです。

5月の中国のプラチナ輸入減少には二つの要因

1.昨年に比べてほとんど相場が動かなかったために需要も減少。
2.プラチナとゴールドの価格の関係。4月はその値差の平均が132ドルであったのが、5月には170ドルに拡大。2月以来の最大の平均値差に。プラチナの輸入が価格により呼応するようになったことの上に、宝飾需要の観点からは中国は、ゴールド価格をより気にするようになっています。



もっと重要な疑問は、中国のプラチナ輸入は総需要と具体的には宝飾需要をはるかに超えたものになっているのではないか、ということです。

プラチナ輸出入統計は2009年からしか数字が存在しないので、この数字だけで重要な決断を下すのは難しいのですが、2013年の輸入量は総需要に対して多すぎる数字になっており、(Figure5)将来輸入量が減少する一因になるとの予想ができる。

一般的に中国はほとんど金属の輸出をしません。一度入ったものは中国国内にとどまります。それゆえに輸入の減少はプラチナの価格にとってはマイナスです。



現状での我々の予想は今年2014年の中国の宝飾需要は42k toz(約1.3トン)の増加。2013年の1,841k toz(約57.3トン)から2014年は1,883ktoz(約58.6トン)へ。もしプラチナ輸入が2013年のレベルから大きく減少するようであれば、この宝飾需要増加予想は強気すぎるかもしれませんが、必ずしも輸入量と宝飾需要が正比例というわけでもないのでまだこの予想を変えるまではいきません。

もし中国の宝飾需要が弱ければプラチナの上昇は限られる

今年のプラチナの需給は南アストライキのため1mozs (約31.1トン)もの供給不足を予想しています。宝飾需要が少々減少してもあまり価格には影響はないかもしれませんが、宝飾需要は、未だに供給が多いメタルの需給のなかでのスイングデマンド的な存在であり、もし宝飾需要が弱ければプラチナの上昇は限られるでしょう。





★池水氏の著書『「金投資の新しい教科書」/日本経済新聞出版社』好評発売中!!
https://goldnews.jp/count2.php?_BID=3&_CID=16&_EID=773

岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

最新コラム

新着ゴールドグッズ

一覧を見る