ゴールドコラム & 特集

ロンドン・フィキシング続報

日本ではお盆まっさかりですが、シルバーフィキシングが8月14日をもって最後になります。この原稿が出た直後ということになるはずです。
5月半ばに唐突の発表があってからはや三ヶ月。すったもんだの末にCMEとThomson Reutersのシステムが8月15日以降「London Silver Reference Rate」という名前で価格を決めることになる予定です。もう「Fixing」という言葉は一切使わないようですね。やはり内輪に何かを決めるというイメージが強いのでしょうか、今後はLondon Silver Reference Rate(LSRR)いう呼称にするようです。
ただ、まだ実際には始まってみないとどうなるかわからない部分も大きく、これを書いている時点でもまだクリアにできていない部分が多いので、おそらく初日から参加できるプレイヤーは少ないのではないでしょうか。参加者の多く、特に金融機関は法律的、そしてテクニカル的にこのSPMをそのままSilver Fixingと同じように継続して利用するというわけにはいかないだろうと思います。
そのためそれらの問題がクリアされるまでは、ちょっとした混乱が続きそうです。これが利用できない以上、このLSRRでの値決め直後にLoco Londonでヘッジをするということになるのでしょうね。とするとしばらくはLSRRとその直後のLoco Londonの関連性がどれほどになるのかが重要になってくるはずです

現在わかっていることを羅列すると以下のようになります。

  • SPMは取引所取引ではなく、OTC Loco London取引。(Fixingと同じです。)
  • 取引参加者は「Submitters」と呼ばれ、彼らは直接このシステムにオーダーを入れることができます。Fixing におけるFixing memberのような感じであるが、数は大きく増える模様。そのほかの参加者はこのSubmittersにオーダーを出し、SubmitterとのOTC Loco London取引という形態になる。
  • London Silver Reference Rate で決まった価格(仮にLSRR価格と呼びます)に買い手は0.5centを払い、売り手は0.5cent受け取ることができる。つまり買いの価格はLSRR+0.5centとなり、売りの価格はLSRR+0.5cent となり、Fixingと同じくで、売り手が優遇されています。ただし売り手の優遇の幅が0.25から0.5に広がっています。
  • 売り買いのバランスが300,000tozまでは許容範囲とされて、参加者すべてに均等に割られてそれを負担してもらうことがあります。
  • 現在、参加者がその顧客に課する手数料(フィキシング時代のfixing commissionにあたるもの)は特に制限はかけられていません。
  • LSRR参加者(=Submitter?)はCode of Conductにサインする必要があります。
  • ISDAがLondon FixingからLSRRへの変更を説明した合意文書の雛形を用意したようです。

これがどのようにワークするのかはまだ今後の成り行きを見てみないとわかりません。本当にややこしい世の中になったもんですね。

ゴールド・フィキシング

シルバーに続いてThe London Gold Market Fixing Limited (TLGMFL)もまた新たなシステムへの移行を明らかにしました。こちらは年末いっぱいまでかかりそうですが、新たな第三者的機関にGold Fixingを任せてしまおうとしています。ゴールドの場合はシルバーよりも断然に大きな影響力があります。これを占う上でも今回のシルバーがどうなるかは市場の注目の集まるところです。実際にどうなったかはまた始まってからレポートしたいと思います。

PGMフィキシング

そしてPGMはといえば、The London Platinum and Palladium Fixing Company Limited (LPPFC)は8月4日にG Cubed Metals LtdとJonathan Spall氏を毎日のFixingのチェアマンに委託し、8月5日からすでにその任についています。G Cubed MetalsはSpall氏が設立した独立したコンサル会社。Spall氏は30年以上貴金属市場での経験を持ち、Credit Suisse、Chase Manhattan Bank,Deutsche BankそしてBarclaysで働いており、Financial Timesのコラムニストでもあります。(私とはCredit Suisse時代の同僚でした。) LPPFCはゴールドと同じく、新しいフィキシングに代わるシステムを募集するという発表をすでに7月末におこなっており、Spall氏もこれを了承しているということです。

ということで、シルバー、ゴールド、PGMとすべてのフィキシングがおそらくは今年内もしくは来年早々にも変わってしまうことになります。僕は現在のシステム自体にそんなに問題があるわけではないと今でも思っていますが、これが時代の流れというやつなんでしょうね、きっと。今よりも良いものになるのならば、なんら文句はないのですが、この変化のために全世界で費やされる時間とお金とエネルギーを考えると果たしてそれだけの意味があるものなのかどうか、正直、現在時点では疑問に思います。まずはシルバーがどうなるか、注目しましょう。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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