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NY原油先物、2015年の最高値を更新

NYMEX原油先物相場は、3月17日の1バレル=42.63ドルをボトムに、4月15日の取引では一時56.69ドルに達し、2015年に入ってからの最高値を更新した。今年は50ドルの節目を挟んで上昇と下落を繰り返す不安定な地合が続いているが、昨年のクリスマス以来の高値を更新した形になる。

背景にあるのは、昨年後半以降の急激な原油安を受けて、いよいよ米国のシェールオイル減産が始まるとの見通しである。米エネルギー情報局(EIA)によると、直近の4月10日の週の米産油量は日量938.4万バレルとなっており、前年同期の830.1万バレルを13.0%も上回った状態にある。しかし、3月下旬以降は前週比で減産となる週も増えており、米国のシェールオイル産業が原油安に対応する限界に到達した可能性が浮上している。

石油リグの稼動数は昨年10月のピーク時からほぼ半減しているが、これまでは1リグ当たりの生産性向上によって、シェールオイル全体としての増産基調は維持してきた。しかし、その後もリグ数の減少傾向が続く中、5月にかけてはシェールオイルの増産が止まるのみならず、減産が始まる可能性が高くなっている。

NYMEX原油先物市場では、投機ファンドの買いポジションが急激に膨らんでおり、概ね原油相場の急落が始まる前の7月前半の水準に到達している。まだ大量の売りポジションが積み上がった状態にあるが、原油価格の底入れを見据えた動きが活発化しているのは明らかである。



■本当に原油価格は底入れしたのか?

しかし原油市場の専門家の間では、原油価格の本格反発にはなお慎重な見方が強い。例えば、米ゴールドマン・サックス・グループは、石油リグ稼動数の減少が想定を上回るペースで進んでいることを指摘する一方で、需給バランスが均衡化するにはなお不十分であることに警告を発している。

確かにシェールオイルの急激な増産傾向にはブレーキが掛かり始めているが、世界は日量100万バレルを超える供給超過状態にあると推計される中、実際の所はシェールオイル生産が日量数万バレル減少しても、大きな影響はない。石油輸出国機構(OPEC)は需要見通しの改善を背景に増産圧力を強めており、3月のOPEC産油量は11年6月以来の高水準に達したと推計されている。これだけで、シェールオイルの減産分は相殺されかねない状況である。

国際エネルギー機関(IEA)は、更に欧米諸国の経済制裁下にあるイランの核協議が進展する中で、イラン産原油の供給が増加して、原油需給構造が一変するリスクにも警告を発している。原油需給バランスの均衡を模索する動きはまだ始まったばかりであり、シェールオイルの減産という一点を以ってして、このまま原油相場の安値是正が進むシナリオを支持することは難しい。そもそも、原油価格が反発すればシェールオイルは再び増産圧力を強める可能性が高く、原油価格の先行きは明るいとは言いがたい。

原油価格の見通しに楽観ムードが広がっているが、専門家の持つ違和感がこのまま無視されて将来の需給均衡化を先取りして原油安に終止符を打つのか、それとも行き過ぎた投機人気の沈静化を背景に反落に転じるのか、現在はその分岐点に差し掛かっている。



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マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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