ゴールドコラム & 特集

中国の保有ゴールド増加発表と中国発のゴールド暴落

先週、中国がその国家保有ゴールドの量を2009年以来はじめて更改しました。これまでは1054トンというのが2009年から一度も更改されていませんでしたが、今回中国人民銀行の中国語のWeb siteで発表されました。

それによると現在の彼らの保有ゴールドの量は1658トンということで、1054トンから604トン、約60%の増加になります。6年で600トンということで1年あたり100トンという計算になります。2009年発表の1054トンの前は2002年の600トンでした。この新たな数字1658トンというのは、マーケットの想像していた彼らの現在のゴールドの保有量よりもはるかに(ほぼ半分)少ないものでした。

2009年から現在に至るまでの中国のゴールド生産量と輸入量、そして国内での宝飾品需要を勘案したバランスを中央銀行の買いと単純に考えると、おそらく3000トン以上に増えているという見方が支配的でしたが、今回の発表はその予想を大きく下回るものでした。この数字が真実なのかどうかは中国政府のみが知るものですが、マーケットはおそらく誰もこれが本当の数字だとは信じていないのではないかと思われます。1658トンというと、米国、ドイツ、イタリア、フランスに次ぐ世界で5番目のゴールド保有量になります。しかしその経済規模を考えると少なくともドイツの3400トン近くの量を持っていてもおかしくないはずです。

この発表は時期的に考えてPBOCが人民元の国際化に向けて、そしてIMFでのSDR(Special Drawing Right;IMFが採用する擬似通貨(通貨バスケット))に人民元を加えるという目標のために、よりマーケットの透明性を強調する上でのアクションだと思います。SDRが議題の会議が開かれるのが、今年の10月であり、それを考えるとこの時期の発表はある程度納得がいきます。SDRに人民元が含まれるためには、ゴールド準備高を発表する必要があるからです。

そしてこの発表があった金曜日の翌月曜日、日本が海の日休日であった7月20日のゴールドのアジア時間での1130ドルから1082ドルまでの暴落のきっかけになったのが、SGE(Shanghai Gold Exchange)でのオープニングでの5トンの売りであるということが不思議と呼応しており、中国のゴールドをめぐる立ち位置が微妙な感じになってきました。


(ドル建てゴールド 17/20/21日の動き)


うがった見方をすれば、中国は世界一のゴールドの需要国であり、個人の買いに加え、中央銀行もゴールドを買いたいとすれば、ゴールドは安い方が彼らにとっては嬉しいわけです。世界一の生産国であってもネットで買い手であるというこの事実に、ゴールドの価格を下げるという「計画」があってもおかしくありません。

金曜日に突然発表されたゴールド準備高が予想よりも全然少ない(つまり人民銀行は思ったほど買っていない失望感からの投資家の売り誘い)、そして月曜日朝のまさにゴールド相場を下げるためだけのような売り方。もし本当にゴールドを少しでもよい価格で売りたいのであれば、もっと流動性のある時間に、もっと少しずつなるべく相場を動かさないように売るはずです。間違っても本当に売りたい人間が流動性の無い時間に、流動性の無いマーケットに大量の売りを浴びせるような売り方をするはずがありません。まさに愚の骨頂のような売り方なのです。これは意図的に相場を下げようとしているとしか思えません。そしてもしそれが狙いだったとすれば見事に上手くいったということになります。あくまで個人的な想像に過ぎません。おそらく、中国のゴールド準備に関しても、月曜日の上海での巨大な売りに関しても今後なんらかの情報が出てくるだろうと思われます。


(世界の中央銀行のゴールドの持ち高とその外貨準備における割合:中国は発表前の数字)


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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