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人民元切り下げと金準備増加の共通目標

中国人民銀行(中央銀行)は8月14日、7月末時点で人民銀行が保有している金準備が5,393万オンス(1,677.41トン)であることを明らかにした。これは6月末時点の5,332万オンス(1,658.44トン)を61万オンス(18.97トン)上回っている。

こうした金準備統計の公表は、主要国では月次や週次単位で普通に行われているものであり、なんら珍しいことではない。例えば日本の場合だと、毎月「外貨準備等の状況」との統計が財務省から発表されており、7月末時点では1兆2,423億1,600万ドルの外貨準備のうち、金準備は270億2,400万ドル(2,460万オンス)を占めていることが明らかにされている。

中国人民銀行も他の中央銀行同様に金準備を保有しているが、中国政府はこうした金準備統計を国家機密として、国際通貨基金(IMF)に対する毎月の残高報告も行ってこなかった。中国の金統計としては中国国内の産金データは公表されているが、輸入量に関しては統計の公表が行われておらず、僅かに香港政府の発表している香港・中国本土間の金取引統計から、輸入動向を推計するのみだった。中国国内でどの程度の金が流通し、それが中国国民や人民銀行によってどのように消費されているのかは、中国指導部の一部の人しか把握していない機密データになっていた。

しかし、中国人民銀行は7月20日、2009年4月から6年以上にわたって3,389万オンス(1,054.10トン)で据え置いていた金準備統計を、6月末時点で5,332万オンス(1,658.44トン)に達していると、突然の改訂に踏み切った。そして、今月も2ヶ月連続で金準備統計の改訂に踏み切っている。2000年以降で中国が金準備統計を更新したことは3度しかなく、それが今年に入ってから突然に2ヶ月連続で更新してきたことは、大きな意味があろう。

■国家機密のベールを外す金準備統計

実は、中国人民銀行が金準備統計の最新統計を年内に発表する可能性が高いことは、金市場関係者の間ではかねてから話題になっていた。今年は国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に採用されるバスケット通貨見直しが行われる年であり、中国政府が中国人民銀行の政策の透明性をアピールする切り札として、金準備統計の最新データを発表することもあり得ると考えられていたためだ。

そして2ヶ月連続で金準備統計の改訂に踏み切ったことは、少なくとも中国人民銀行の金準備保有高の機密性低下を容認する方向で方針転換が行われたことが窺える。中国に関しては、金準備高の引き上げ報告が、実際に新たに金準備を買い付けたのか、それとも過去の買い付け分を明らかにしているだけなのかは、正直に言って分からない。そもそも、6月末時点の5,332万オンス(1,658.44トン)という数値もマーケットの推計からは規模が小さ過ぎると言われていた。このため、今回発表された数値も、本当に7月末時点の正確な金準備資産保有高を表しているのかは、慎重な分析が求められる。敢えて実際よりも低めの数値を発表して、毎月のデータ更新実績を作っている可能性もある。

確かなことは、こうした中国の金準備保有高の更新が、人民元相場の切り下げとほぼ同時期に実施されたことのみである。これまで厳格に管理されていた人民元相場の切り下げは、SDRバスケット採用に向けてIMFに対する強力なアピールになったとみられるが(参考:人民元切り下げ、中国が国際批判を浴びても実現したいこと)、更に金準備統計の2ヶ月連続の更新によって、人民元が米ドル、ユーロ、円、英ポンドと並ぶ国際通貨としての資格を有していることを強力にアピールした形になっている。

今の時代、SDRバスケット採用の有無は実質的な影響力を殆ど有していないが、人民元の国際通貨化を目指す中国政府にとっては、極めて優先度の高い政策であることが再確認できる。中国としては、SDR採用をテコにまずはアジア地区での決済通貨として人民元の国際化を推し進める方針であり、その第一歩で2010年に続いて今年もつまずくことは許されない「メンツ」を賭けた勝負になっているようだ。



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マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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