アングル:金相場の動向、カギは地政学要因よりも米金利上昇

アングル:金相場の動向、カギは地政学要因よりも米金利上昇
 5月26日、金相場を展望する上で、近年の金価格と実質金利の関係に着目すると、地政学的緊張がもたらすプラス効果よりも、米金利上昇がもたらす脅威の方が大きいといえる。写真は金の延べ棒。2016年3月にウィーンで撮影(2016年 ロイター/Leonhard Foeger)
[ロンドン 26日 ロイター] - 金相場を展望する上で、近年の金価格と実質金利の関係に着目すると、地政学的緊張がもたらすプラス効果よりも、米金利上昇がもたらす脅威の方が大きいといえる。
金融危機が最も深刻だった2009年以降、金価格と米10年債の実質利回りは逆相関の動きを続いている。今年第1・四半期に金が約30年ぶりの大幅上昇を記録したのは、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを先送りするとの観測が強まったからだった。
この値上がりには、6月の英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票や11月の米大統領選をめぐる不確実性も一定の役割を果たした。
こうした不確実性は短期的には引き続き金を押し上げる要因になり得る。しかし、FRBが金融政策でタカ派姿勢を打ち出し始めた今月18日以降の5%近い金の下落を食い止める力はほとんど見られなかった。
CMEグループのフェドウオッチによると、フェデラルファンド(FF)が織り込む6月利上げ確率は足元で34%と、先週初めの4%から上昇した。7月と9月の確率は45%となっている。
ロンドン&キャピタルの投資ディレクター、アショク・シャー氏は「今年後半の政治状況は、英国のEU離脱(ブレグジット)、米国の選挙、トルコなど、信じられないほど騒がしくなる。リスクの高まりは通常は金にとって追い風だが、最も重大な要素は恐らく米国の金利サイクルだ。この金利サイクルはこれまで、金の一段の上昇を阻止してきた」と述べた。
金価格と実質金利がいつもきれいな逆相関を示していたわけではない。2006年までの10年間は、金融危機の始まり以降に比べれば逆相関関係はずっと弱かった。
ジュリアス・ベアのアナリスト、カルステン・メンケ氏は「実質金利と金価格を結びつけているのは投資需要だ。金利が低いと、利回りを生まない金の魅力度が高まる」と指摘した。
GFMSのデータによると、昨年の金需要のうち投資として確認できる買いの割合は約25%で、2000年の7%から上昇した。このように投資が金価格に与える影響度が増すとともに、実質金利との逆相関が鮮明になっていった形だ。
物価上昇率が2%近く、金利水準も少し高めというもっと正常な経済環境であれば、金価格はスクラップの動きや宝飾品需要といったより伝統的な要因に左右される度合いが大きくなる。
今後世界経済の風向きが変わり、それによって金価格と実質金利の逆相関関係が弱まるかどうかは、金融危機後の投資家の金に対する態度の変化がどの程度続くかにかかる。
ICBCスタンダード・バンクのアナリスト、トム・ケンドール氏は、金市場で抜本的な構造変化が起きていると考えるか、あるいはこれらの投資フローが消えてなくなると想定するかどうかで事情が違ってくるとの見方を示した。
(Jan Harvey記者)

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