ゴールドコラム & 特集

中国のゴールド実需の現状

中国のゴールドマーケットは、今年はここまで比較的静かでした。第一四半期のスイスの香港と中国本土へのゴールド輸出量は152トンで2015年の25%減となりました。また、上海黄金交易所(SGE: Shanghai Gold Exchange)の登録倉庫からの現物の引き出しは第一四半期合計687トンで、これは前年同期比19%も低い数字でした。


(スイスから中国(香港含む)へのゴールド輸出は25%の減少)


SGEとLoco London Goldとのスプレッドは、フラット(同じ価格レベル)から3ドルプレミアムの間での動きとなり、昨年2015年の動きと比べると半分くらいのレンジになっています。


(SGEとLoco London Gold の関係)


先週紹介したインドと同じく、中国の市場に影響を与えている要因がいくつかあります。まずその筆頭は経済成長の鈍化とそれによる将来の出費に対する不安から、宝飾品の売上が大きく減少しました。香港の3大宝飾業者のうち2社は中国本土の小売店の販売が第一四半期は前年同期比25%の下落、残りの1社も若干の減少を報告しています。

そして価格の高騰ももちろんゴールド宝飾を買うことを躊躇させた大きな理由です。消費者はここまでゴールドの価格上昇が今後も維持されるとは思っていないようです。

この状況下、宝飾加工業者はより利益率の高い高級品に注力するようになっています。典型的なのは「宝石が付いた宝飾品」ですが、逆にこういったもことでゴールドを使う量が減るということになります。シンプルなゴールド宝飾品も、低品位のファッションジュエリーの浸透と、そして人口構造の変化により、結婚の数自体が減少していることによりその需要は減少しています。

その結果、ここから3年の宝飾品の売上の予想は、その金額ベースで年率5%くらいの成長予想となり、2009年から2015年の20%を超える成長率と比べると格段に低いものになります。新規出店のペースは落ち込み、既存の不採算店の撤退と、この成長率の影響はもはやマーケットに反映されています。新規在庫としてのゴールド需要は冷え込み、逆に余った在庫がマーケットに放出されるということが起こっています。

中国市場でのもう一つの重要な変化は、国内と国外での人民元金利の差が縮小したということです。3ヶ月物の国内銀行間人民元金利と海外(オフショア)の3ヶ月LIBORとの差は一年前の4.5%から2%へと縮小しました。ゴールドを輸入できる中国の銀行や企業が、海外でゴールドを借りることで、結果的に安い資金調達をし、それを国内で貸し出すことにより得られていた利益が大きく減り、この取引自体大きく減少しました。また同時に為替のリスク(特に米ドル)を負う中国企業が多くなり、ヘッジにかかるコストも上昇しています。


(金利の差が縮小、人民元レートのボラティリティが増加。ゴールドを利用した資金調達の魅力がなくなる)


こういった現状にある中国市場、まだかなり長期の間、ゴールドのマーケットでは頼りになりそうにありません。現在のゴールドの価格の上昇は、投資家の買いによるもの。実需は、中国、インドをはじめとして全くついてきていません。今後の英国のEU離脱を問う国民投票、そして米国の大統領選挙と投資家の不安を煽る大きな材料があり、投資家の買いはまだまだ続くと予想されます。上がり続けるゴールド価格に、上昇が始まってから全く鳴かず飛ばずになっている実需が今後どうなっていくのか気になるところです。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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