サウジの異変、金塊も没収か
中東は文化的に金への選好度が高い地域だ。サウジアラビアも例外ではない。王子たちは欧米で金を扱う銀行の「優良顧客」になっている。筆者が担当した王子もなまりがない英語をしゃべり、所作もウォール街の人物かと見間違えるほどだった。
それゆえ、今回の突然の腐敗弾圧の動きの中で、金市場では、拘束された王子たちが保有しているとみられる巨額の金塊の一部が没収されるのでは、との観測が飛び交う。
特に政府側が、王子の保有資産の一部供出を条件に解放するとの「取引」情報に懸念を抱いている。政治リスクが強まると与信限度枠も縮小される。先物で売買している事例もあるので、「強制手じまい」などのカウンターパーティーリスクも考慮せざるを得ない。
サウジ当局が王子たちへ自国への投資を優先させ、国外資産のレパトリ(本国還流)を促しているとの「サウジ・ファースト」の動きも気になるところだ。金塊の多くは世界の金現物取引の中心地であるロンドン市場の大手銀行カストディアン(保管機関)に預託されているケースが多いからだ。
サウジアラビア通貨庁(SAMA)が相当量の金を「隠れ外準」として国際通貨基金(IMF)に申告せずに保有しているとの観測も以前から根強い。一般論として公的保有金のかなりの部分はイングランド銀行やニューヨーク(NY)連銀などの金庫に保管されている。最近では、ドイツがNY連銀に預託している公的金保有の一部を「現物監査」のためフランクフルトに戻す措置を取った事例もある。
総じて一連の強権政治の流れは、腐敗撲滅の習近平(シー・ジンピン)政権を、自国第一主義の動きはトランプ政権を想起させる。
株式市場ではアラムコ上場の行方、そして、著名投資家アルワリード・ビンタラール王子が保有するアップル、シティーグループ、ツイッタ―株への影響が注目されるところだ。
2018年のリスクとして、サウジの異変から目が離せない。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経ヴェリタス「逸's OK!」と日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層心理」を連載。
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