[WGC]中央銀行の分散化戦略―米ドルとユーロ偏重からのリバランス
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各国中央銀行は、米ドル・ユーロから外貨準備を分散
金をはじめとする代替資産に投資
ワールド ゴールド カウンシルの最新レポート「中央銀行の分散化戦略―米ドルとユーロ偏重からのリバランス」では、各国中央銀行が外貨準備ポートフォリオの分散化を積極的に取り組む傾向が強まっている点を検証しています。米ドルは依然として国際通貨として第一位の地位にありますが、長期的優位性は薄れつつあります。この傾向を受けて、各国中央銀行は、米ドルやユーロへの投資配分を減らす一方で、金・日本円等の従来型資産、さらには中国人民元等の新代替資産への投資を増加させています。
世界各国の中央銀行が保有する外貨準備高は2000年の2兆ドルから2012年には12兆ドル以上に拡大しています。この12年間のデータを見ると、外貨準備が米ドルから大幅にシフトする一方で、外貨準備高に占める「その他」通貨のシェアは、2008年以降絶対値で3倍となっているのが読み取れます。
中央銀行にとって、金は外貨準備資産としての長い歴史があり、従来型資産と捉えられています。金は他の従来型外貨準備通貨や新代替通貨と統計上の相関性は見られず、米ドルやユーロからの分散化のための最重要資産の一つとなっています。この傾向に沿って、2012年の第4四半期の世界各国の中央銀行による金購入額は8四半期連続の公的セクター買い越しとなると同時に、1964年以来の最高水準を記録しました。
ワールド ゴールド カウンシルのガバメント・アフェア担当マネージャー、アシシュ・バティア(Ashish Bhatia)は以下のように述べています。
「中央銀行が新代替通貨と並行して金準備を積み増すのは最適の戦略です。何故ならば、金へのアロケーションは未だ過少気味であり、他の魅力ある代替通貨は投資規模として小さすぎるか、もしくは中国人民元にみられるように国際通貨として門戸が開かれていないかのいずれかであるからです。」
「金は十分な厚みと流動性を兼ね備えており、しかも信用リスクがありません。この特性によって、中央銀行にとっては、米ドルやユーロとの入れ替えを検討するにあたって、投資対象として最も魅力的な資産の一つとなっています。金のテール・リスク・ヘッジの特性も外貨準備ポートフォリオの分散化の組み入れ資産としての存在価値を高めています。」
本調査では、世界の中央銀行が外貨準備資産全体の65%を米ドルとユーロで保有継続しつつも、有望な代替資産として、中国、カナダ、オーストラリア、スイス、デンマーク等の通貨建ての資産を組み入れることを検討する、という前提に基づいて予測を行いました。ポートフォリオ最適化手法を用いて、これらの代替通貨のメリットを計量化すると同時に、入手可能量およびアクセス制限の可能性も考慮して、分散化利点のメリットを検証しています。
本調査の重要な所見としては、以下の点が挙げられます。
- 中国人民元および豪ドル資産が分散化の重要な資産として本調査で登場します。しかし、ポートフォリオ最適化分析で、市場規模とアクセスの制約を考慮すると、金のアロケーションは8%と突出し、人民元の4%、豪ドル資産の3%のアロケーションを大きく凌駕しています。金のアロケーションに匹敵するのは、最適化ポートフォリオの中で同じ8%の構成比となった日本円だけです。
- 金市場の規模は約3兆2,000億米ドルと大規模であるので、中央銀行は大規模な金額で金への投資実行が可能です。金市場は、1日当たりの推定平均売買総額2,400億ドルと極めて流動性の高い市場です。
- 新興国の中央銀行は、カナダ・ドル(CAD)、オーストラリア・ドル(AUD)、スイス・フラン(CHF)、デンマーク・クローネ(DKK)、中国人民元(CNY)の通貨建ての資産に投資しています。代替資産の強さの相当部分は経済成長および商品セクターと相関性が高い点を勘案すると、これらの通貨建ての資産は景気循環と大きく関連するリスクが内在しています。
- 外貨準備代替資産の投資規模に制約があることから、従来型資産が分散化に果たす役割が再注目されています。市場シナリオ最適化のために、資産の市場規模に応じて調整を加えると、金(8%)、日本国債(8%)、英国債(6%)等の従来型資産は、スイス・フラン(1%)、デンマーク・クローネ(1%)、オーストラリア・ドル(3%)等の代替資産よりも大きなアロケーション結果となります。
- 中国人民元市場は投資対象として魅力がありますが、投資アクセスは依然困難を伴います。国外投資家は、約13の中央銀行と政府関連機関で現在構成される中国の適格外国機関投資家(QFII)プログラムに参加しなければなりません。個別機関による参加は10億ドルまでに制限されており、これは中央銀行が十分な規模で投資するには、小さすぎます。
本分析では、世界の各中央銀行が米ドルとユーロの比重が高い外貨準備ポートフォリオの分散化を志向する中で、金および従来型資産が代替資産に引けを取らない補完的役割を果たすことが可能である点が実証されています。本調査結果では、「中央銀行の外貨準備投資責任者が他の従来型資産および代替型資産の最適な構成水準を構築する際には、金の外貨準備を増加させるのが賢明であろう」ということが示されています。
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