コラム:中銀の「金投資フィーバー」、無謀とは言えない理由

コラム:中銀の「金投資フィーバー」、無謀と言えない理由
 2月5日、金の愛好者がいつも理性的だとは限らない。しかし昨年、米国が金本位制と決別した1971年以来で最大量の金を購入した各国中央銀行は別だ。シンガポールで2017年撮影(2019年 ロイター/Edgar Su)
Swaha Pattanaik
[ロンドン 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 金の愛好者がいつも理性的だとは限らない。しかし昨年、米国が金本位制と決別した1971年以来で最大量の金を購入した各国中央銀行は別だ。
これは価格上昇を見込む短期的な賭けというよりは、ドル支配が徐々に崩れていくことを見据えた措置という面が大きい。
ワールド・ゴールド・カウンシルによると、中銀が昨年購入した金は合計651.5トンで、過去2番目に多かった。ここ数年同様にロシア、カザフスタン、トルコの購入が多かったが、昨年はポーランド、ハンガリー、インドもこれに加わった。
外貨準備を管理する中銀は通常、口が堅い。しかしハンガリーは昨年10月、短期的な投資目的ではなく長期的な安定を理由に、金準備を10倍に増やしたと説明している。金は供給量が限られており、特定の機関や国に対する債権ではないため、信用リスクやカウンターパーティーリスクを伴わない。
これは、個人投資家が金を買い込んでいる理由に似ているように見える。つまり、株式や債券など、よりリスクの高そうな資産を持っていることに怖気づいているのだ。
地政学的な緊張が高まっている今、これはもっともな話だが、より大きな理由が2つある。
1つは、米国が世界の金融システムにおけるドルの支配力を笠に着ることへの懸念だ。
ドイツ、フランス、英国はイランとの間でドル以外を用いた通商経路を開こうとしているが、米国による対イラン制裁の効果を決定的に弱めることは不可能だろう。欧州連合(EU)欧州委員会のユンケル委員長が、飛行機、エネルギーその他製品の貿易に際してドル決済を拒み、ユーロを国際通貨として奨励したがっているのも無理はない。
さらに重要な理由は、中国の台頭だ。
中国経済は世界の総生産(GDP)の約5分の1を占め、貿易高は世界貿易の1割以上に及ぶが、公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)によると、世界の外貨準備に占める人民元の割合は2%に満たない。
各国中銀は、いつになれば人民元、あるいはユーロがドルの圧倒的支配を崩せるかは知らないかもしれない。それでも、外貨準備を分散化し、ドル一辺倒から脱するための小さな予防措置を講じているのだ。これは金投資フィーバーにありがちな、むやみやたらな熱狂とは程遠い。
●背景となるニュース
*ワールド・ゴールド・カウンシルによると、世界の中銀が昨年購入した金は651.5トンで、前年比74%増加した。これは過去2番目の高水準。
*国際通貨基金(IMF)が昨年12月28日に公表したデータによると、世界の外貨準備に占めるドルの割合は昨年第3・四半期に61.9%と、約5年ぶりの低水準となった一方、ユーロは約4年ぶりの高水準だった。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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